必要は発明の母、とはよく言ったものだ。必要のあるところ、発明が生まれる。無人島でもそういうことがよくある。何しろ、電気もガスも水道もない場所だ。さまざまな場面で不便に出くわす。しかし、それが発明の種になる。「ないではなく、あるを見るべし」というものの考え方は、島で豊かに過ごすための大切な掟の一つだ。
たとえば、島に来て箸を忘れたとする。ふだんの生活なら代わりになる箸やスプーンやフォークがいくらでも手に入るだろう。しかし、島ではそうはいかない。台所の茶だんすにコンビニでもらった箸がまだたくさん残ってるよ、なんてことはないのだ。とはいえ、手づかみで食事をするほどワイルドにはなれそうにない。そんなときは、その辺りの竹をパキッと割ってナイフでシャーっと整えると箸ができる。それどころか、その箸がマシュマロを焼くための串にもなるし、牡蠣を開くためのオープナーにもなるし、使い終わったら火にくべて燃料にもなる。箸より便利な棒、HBBの誕生である。名前はいまつけた。
ほかにも貝殻のスプーン(KGS)や、竹の火吹き棒(THB)、ヘッドライトとペットボトルを組み合わせたランタン(以下略)など、島で生まれた発明品はいろいろある。その多くは無人島の環境、言わば不便を材料にして子どもたちが柔軟な発想で作り出したものだ。どれも実際に役に立つ道具ばかり。しかし、たまに例外がある。斜め上をいく想像力によって周囲を驚かせた衝撃的な発明を一つ紹介しよう。
ある秋のコースでのこと。曇りがちで肌寒い日が続いていた。気温が低いと、寒さ以外にも困ったことが起こる。濡れたものが一晩たっても乾かないのだ。うっかり生乾きの服を着てしまったことのある人にはわかると思うが、濡れた衣類というものはとても冷たく、気持ちが悪い。そんな状況で迎えたある朝の散歩。磯を歩くために、足元だけ海セット(濡れてもいい靴と靴下)に着替えて集合することになった。
前日から濡れたままの靴下に足を入れたのだろう、各テントから悲鳴が響いてくる。そんななか、一人の女の子がすばらしい対策を思いついた。まず乾いた靴下を履く。その上にビニール袋を履き、濡れた靴を履くのである。これで足元をドライに保ちつつ、水場を歩き回ることができる。そのアイデアを称え、みんなで拍手を送っていると、それを隣で見ていた男の子がテントに戻って行った。しばらくして戻ってくると何やら足元の様子が変わっている。なんと、完全に乾いた普段履きの上からビニール袋を履いていたのである。確かに濡れない。しかし、どう考えても岩場でビニールがすぐに破れてしまう。惜しいアイデアだな~、などとあたりが和やかな笑いに包まれていたその横で、それを見ていた別の男の子がテントへ戻って行った。しばらくすると、その子が満面の笑みを浮かべながら走って帰ってきた。足元にすごい違和感。よく見ると、素足にビニール袋を履いている。その瞬間、あたりが爆笑の渦に包まれた。しかし、本人はいたって真剣。画期的な発明を訴える博士のようだった。愛すべき高学年男子の、愛すべき発明。カトパンの特別シールがその場で授与されたのは、言うまでもない。
花まる学習会 橋本一馬
【無人島レポート-2022冬-】小屋づくり をはじめから読む
【無人島レポート-2022夏-】社員開拓団 をはじめから読む
【無人島レポート-2021初夏-】醤油メシ をはじめから読む
【無人島レポート-2021初夏-】ドラム缶風呂 をはじめから読む
花まる子ども冒険島
モノであふれた社会とはかけ離れた島、無人島。
今日を生き抜くために、頼りになるのは自分の心。
そこは、野外体験の究極の場となる。
強い『心』と自分の『目』を磨き、『自分の言葉』で語れる人に。
心と身体を強くする、花まる子ども冒険島が、いま始まる。
https://hanamarumujinto.wixsite.com/home
\最新情報を更新中!/
花まる子ども冒険島Instagram
https://www.instagram.com/hanamaru_mujinto/
花まる学習会 野外体験サイト
https://hanamaruyagai.jp/