【無人島レポート-2021初夏-】醤油メシ①

【無人島レポート-2021初夏-】醤油メシ①

たぶんオレのことが好きなんだと思う。会うときはいつも笑顔だし、優しい言葉をかけてくれるし、コーヒーのおかわりだってくれるし。そういえば、うたた寝から起きるとブランケットがかかっていたこともあったなあ。思い切って「僕もです」とか言ってみようかなー、微笑みを添えて。としばらく窓から瀬戸内海を見ているうちに高度が下がり始めて広島空港に着いた。「ありがとうございました。行ってらっしゃいませ」。はかない。

7月のサマースクールに向けて、島の開拓は順調とはいえなかった。何しろ1か月前のいまになるまで、開拓作業を延期せざるを得なかったのだ。しかも、事前に私が来られるのは今回が最後で、次にカトパンと会うときは本番である。今回の開拓で、できる限りのことをしておきたい。キャンプサイトの拡大と整地、風呂とかまどの増設、物資の買い付けと運搬と整理、危険エリアの調査とマーキング、島内で調達できる水と食料についての情報収集…ただでさえ仕事は山積みである。しかし、今回はさらに攻めたミッションを計画していた。本番と同じ食料条件にして島で過ごすのである。つまり、米と水と調味料以外の食料を持たずに無人島に渡る。

「醤油メシ」ルールで一日を過ごして、実際に何が起こるかを確かめること。これは必須のミッションだった。我々が未体験の危険要素を、ぶっつけ本番で子どもたちに体験させることはできない。だから、これは本番に向けての体を張った安全管理でもある。カトパンと覚悟をして決めたことだが、我々はむしろワクワクしていた。だからいまここにいるのだろう。

島に着き、私が船の上から荷物を降ろしていると、突然、島の入り口でカトパンが叫んだ。「来てください!早く!」かなり興奮している。何かを見つけたようだ。船から飛び降り、急いで駆けつけると、カトパンが大きく両腕を広げた。「いまいまそこに、こ~んなヘビがいました!」「えー!食えるんじゃない?」途端に我々の目つきが変わった。狩人モード、という言葉が頭をかすめる。と同時に、脳が焦ったあげく連想を間違えてあずさ2号がBGM的に流れた。そしてヘビはすでに密生した竹の奥へ8時ちょうどに旅立っていた。ああん。

来島のそこらじゅうに生えている竹は、暖竹(ダンチク)という。1本の丈は3m、太さは2~3㎝ほどしかないが、それが隙間なく大量に群生しているため、人間が入り込めない壁の塊のようになっている。ここに逃げ込まれると、それ以上獲物を追えない。結局ヘビの捕獲は諦めることになった。ああん。

とはいえ、早速ヘビが見られたのは幸先がいい。米以外の食べ物にありつけそうである。うまくいけば醬油メシは回避できるかもしれない。しかし、さよならがいつまでたってもとても言えそうにないカトパンは、その後もしばらくヘビを逃がしたことを悔しがっていた。前回のタコへの執念といい、カトパンには並々ならぬ狩猟本能を感じる。

あずさ2号が、脳内リフレインするうちにくじら12号を呼んできたが、実際に流れていたのはそばかすだった、という間違いに気づいた頃に、そのままになっていた荷降ろしが完了した。どうしてかしら、あの歌の歌詞が思い出せないの。拠点を作ると、早速山に入る準備を始める。今回、山に入る目的は3つあった。食料調達、危険エリアの見極めとマーキング、そして山頂への非常用物資の荷揚げである。

非常用物資は、20人が3日間食いつなげるように水と食料の量を算出した。地震による津波を想定し、それを標高68.3mの山頂に備蓄する。結果、100ℓサイズのコンテナを2つ、山頂に運び上げる作業が必要になった。今回運ぶコンテナは1つだが、100ℓというと、小型の冷蔵庫くらいある。中身を抜いているとはいえ、これを持ってジャングルのような山を抜け、てっぺんまで行けんのか、やれんのか。

子曰く、「出る前に負けること考える馬鹿がいるかよ」

100ℓのコンテナを手に、我々はストロングスタイルで山へと入って行った。 (つづく)

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