いつだったか、立派な孟宗竹が島に流れ着いた。10m近くはあろうかという大物である。広島の海に無数に浮かぶ牡蠣筏の一部が何かの拍子に壊れて流されてきたのだろう。浜辺にはさまざまなものが漂着するが、これはめったにない出物だぜ、ということでエッサホイサと島に運び上げておいた。
それからしばらくが経った、ある夏のコースでのことだ。火おこしに必要な焚き付けを使い果たしてしまい、薪割りをすることになった。普通の木でもいいのだが、竹は油分が多いので特に優秀な焚き付けになる。そのうえ繊維が縦に揃っているのでとても割りやすい(ちなみに、竹を割ると「竹を割ったような」という表現が実感できる)。そんなわけで、この前の孟宗竹を割ってもらおうじゃないか、ということになった。
そこで名乗りを上げたのが、ある6年生の男の子である。寡黙な少年で、薪割り経験がないにもかかわらず、いかにも薪を割っていそうな雰囲気がすでに出ていた。この歳にして高倉健が醸し出すようなオーラの片鱗が見える。たとえ不器用でもかまわないと思った私は、健(仮名)に薪割りを任せることにし、レクチャーを行った。別に不器用ではなかった。
孟宗竹の端をノコギリで40cmほどの長さに切り出して鉈をあてがい、軽く叩くと刃が少し竹に食い込む。そのまま鉈を振り下ろすと、カッ、と竹は小気味よく真っ二つに割れる。あとはそれを繰り返す。2つを4つに、4つを8つに。親指くらいの幅になるまでどんどん割っていく。そうすると一山の焚き付けができあがる。
それからずっと健は竹を割り続けた。みんなが釣りをやっている間も、ほかの作業をしている間も、それに誘われても、おかまいなしに一人で割り続けた。竹は根元に近づくほど太くなっていくため割るのが難しくなっていくが、そんなことは意に介さない様子だった。そばを通るたびに竹の全長が短くなっているのがわかる。すでにカゴ一杯に十分な焚き付けがたまっていたが、それでも健は竹を割り続けた。最初は「よほど気に入ったんだな」という感じで見ていたが、次第に「どこまで続けるんだろう」と気になってきて、そのうちに「全部割っちゃうんじゃないか」とまわりがざわついてきた。そしてとうとう、健が最後の1本を手にしたときには全員が固唾を呑んでそのときを見守っていた。
優に数百回は繰り返されたであろう動きによって手つきは洗練されていた。スコン、と最後の一片が割られた瞬間、周囲から拍手と歓声が湧き起こり、そこで初めて健は照れたように控えめに笑った。お前は本当に高倉健か。いい笑顔だった。
ひとしきり偉業を讃えたあと、みんなは元の活動に戻った。健はどうしたか。健は、叩きすぎて割れてしまった薪割り台を割りはじめた。フルマラソンのゴールテープを切ると、そのまま走り去っていったのだった。
花まる学習会 橋本一馬
【無人島レポート-2022冬-】小屋づくり をはじめから読む
【無人島レポート-2022夏-】社員開拓団 をはじめから読む
【無人島レポート-2021初夏-】醤油メシ をはじめから読む
【無人島レポート-2021初夏-】ドラム缶風呂 をはじめから読む
花まる子ども冒険島
モノであふれた社会とはかけ離れた島、無人島。
今日を生き抜くために、頼りになるのは自分の心。
そこは、野外体験の究極の場となる。
強い『心』と自分の『目』を磨き、『自分の言葉』で語れる人に。
心と身体を強くする、花まる子ども冒険島が、いま始まる。
https://hanamarumujinto.wixsite.com/home
\最新情報を更新中!/
花まる子ども冒険島Instagram
https://www.instagram.com/hanamaru_mujinto/
花まる学習会 野外体験サイト
https://hanamaruyagai.jp/