【無人島レポート-2021初夏-】ドラム缶風呂①

【無人島レポート-2021初夏-】ドラム缶風呂①

5月に入って以降、度重なる緊急事態宣言によって、無人島の活動はほぼ止まっていた。親子開拓団も開拓ヘルプもすべて延期となり、カトパンも研修が始まったことで、島へ渡る回数も減っている状態。しかし、もうすぐ7月である。サマースクールが始まる。それまでに、無人島を「高濱先生と行く修学旅行」の舞台として、何としても開拓し終えなければならない。もはや不要不急ではない、という判断をしていただき、私は再び島へと向かった。

広島空港に到着すると、すぐにタクシー乗り場へと向かう。迎えの車を待っていると、見慣れないジムニーが目の前で止まった。「えっ誰?間違えてますよ」と思ったらカトパンだった。

10万kmを超えた黒のマツダが煙を吹いてオシャカになり、車を買い替えたのだという。しかし、93年製のこのジムニーは、販売時すでに走行距離が13万kmだったらしい。10万kmからの買い替えなのに、さらに走行距離を上乗せしてくるところはさすがカトパン、オレたちにできないことを平然とやってのけるッ。それでいて、車体はきれいなブルーグレーに塗り替えられており、レトロでありながら都会的なセンスが漂っていた。もちろんマニュアル。リフトアップ。ついでに、運転席でさえ酔うという謎の揺れもついていた。「酔うんすよー」と言いながらもカトパンは笑顔だ。この車を見た瞬間、一目惚れしたらしい。確かに、モノにはそういう出合いがある。このジムニーは、実にカトパンらしい車だった。ナンバーは6210。推して知るべし。「ユレヲケンチシマシタ」とドライブレコーダーに小言を言われながら、我々は新たな相棒に乗って、一路お馴染みのホームセンター、ジュンテンドーへと向かった。

今回のミッションは、ドラム缶風呂作りである。もちろん海水100%。知識として知ってはいるが、実際に無人島でドラム缶は風呂として機能するのか、イメージしている作業行程で問題は起きないか、沸くまでにどれくらいの時間がかかるのか。そうしたことを確かめる。

ホームセンターに着くと、台車を転がして屋外の資材コーナーへ向かう。風呂の土台となるU字ブロックを2つと、水汲み用に13リットルのバケツを2つ購入した。数は少ないが重さはヘビー。ブロック1つでもおそらく20〜30㎏はある。2ℓペットボトル1ダース分。一人では持つのをためらう重さだ。

物資に一泊分の食料を加え、買い出しが終わると、一度カトパン邸に寄って、調理器具など細々したものを追加した。車に荷物を運ぶ途中でふと足元を見ると、玄関の前に銀色の屑が散らばっている。おそらく、ドラム缶に水抜き栓を取り付けるためにドリルで穴を開けたときの切削屑だろう。火傷をしないように風呂の底に敷くためのスノコも、ドラム缶に合わせて丸形に手作りされていた。おかげで下駄はいらない。島に行かないときも、しっかり島の準備をしているカトパン。その苦労がにじみ出ている。そんなカトパンに目をやると、「あつぅ!」と相棒ジムニーの熱々のマフラーに触れ、足を焼かれていた。神よ。

積み込んでみて気づいたのは、93年製の、いやたとえ2100年製だとしても、乗用の軽自動車はドラム缶を乗せるようには設計されていないということだ。すごい画。圧迫祭り。ドラム缶が大きすぎて、物資が一回で運び切れない。仕方がないので、船着場まで車で2往復してようやく出発準備が整った。

昼過ぎ、無事に出港。操縦は私だ。3月に船舶免許を取ってからは、広島に来るたびカトパンに教えてもらいながら船を動かしている。その日の海は比較的穏やかだったが、沖に出ると少し波が高くなった。エンジンの回転数を4000rpm(全力の80%くらい)まで上げて波を越えて行こうとしたが、逆にバウンドが大きい。ドシッ、ドシッ、ダンッ、と公倍数のように波と船のリズムが重なるタイミングが来て、そのたびに船が大きく跳ね、船底が強く打ち付けられる。U字ブロックで挟み込んで固定しておいたドラム缶は無事のようだ。カトパンは歓声を上げながらも、子どもがどの程度の揺れまでなら安全に耐えられそうか、体感で確かめようとしている。しかし、何度目かの大きな衝撃の後に危険を感じ、スピードを緩めてしばらくそのまま進んだ。

気がつけば、もう島が近い。手前の岩礁を大きく東に迂回しながら、そのままビーチへと入っていく。錨を下ろして船を停泊すると、ようやく一息ついた。ソロモンよ、私は帰ってきた。

(続く)

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