【無人島レポート-2023春-】船①

【無人島レポート-2023春-】船①

 3月の早朝。閑散とした高速道路を突っ走り、私とカトパンは岡山の備前へ向かっていた。車外を流れていく寒々とした景色とは逆に、我々は期待で少し熱を帯びている。新しい船を取りに行くのだ。新しい船といっても「花まる丸」を乗り換えるわけではない。花まるにとって2艇目の船が納船されるのである。「えっ!? 2隻もいるの?」という声が聞こえたような気がするのでお答えしよう。「いる」

 なぜ船は2艇必要なのか。2つ理由がある。ひとつは、1コースぶんの人と荷物を一度で島に運ぶためである。船は定員が法律で決められていて、当然だがそれを超える人数は乗せることができない。ちなみに、花まる丸の定員は10人(12歳未満は0.5人としてカウント)。そのため、1艇で運ぼうとすると、行く、戻る、行く、で移動時間が常に3倍かかってしまい、活動に支障をきたす。もうひとつの理由はより重要で、安全のためだ。たとえば、島で急病人が出て、1艇しかない船で本土の病院に運ぶとする。すると、そのあいだ島に人がいて船のない状況が生まれる。これが危ない。新たにケガ人が出ても、天候が急変してキャンプどころではなくなっても、自力で島から出られなくなるからだ。それはもはやリアルな遭難である。サバイバル体験がテーマであるとはいえ、ボクシングジムに体験にいったら本気のメイウェザーが殴りかかってくるような状況は絶対に避けなければならない。また、2艇あればどちらかにトラブルが起きても何とかできるので冗長性が高まる。実際、カトパンがひとりで島に作業に出たとき、係留ロープがスクリューに巻き込まれて船を動かせなくなったことがあった。そのときは、連絡を受けた私がもう1艇で助けに行って事なきを得た。そんなわけで、2艇の船は二重の安全策としても必要なのである。ここまでは、ガッテンしていただけただろうか。

 じゃあ、いままではどうしていたのかというと、2艇目の船を借りて使っていた。しかしその借用船は大滝秀治を彷彿とさせる年季が入っていたため、運動会のリレーメンバーにひとりお年寄りが入っているような、そこはかとない不安を感じていたのである。おまけに、その借用船はカトパンしか乗りこなせないほど操縦のクセが強かった。そんななか、ようやく中古で見つかったのが今回納船される待望の船なのである。

 新しい船を迎えるにあたって我々を楽しく悩ませたのは、船名である。「第二花まる丸」みたいな名前だとちょっともったいない気がする。そこで、SNSのフォロワーなど無人島に関心の強い会員の方々から案を募って候補を絞り、最終的に高濱さんと相談して決めた。開拓団としても参加してくれていた、高妻紗智子さんの案である。そして、船体にプリントする字も素敵な毛筆がいいよね、ということになり花まるの先生のなかから書道の心得のある人にお願いした。お祖父様から書の手ほどきを受けていたという、生駒春佳(まっしゅ)さんである。生駒さんは「書道らぶ」という花まるの書道イベントを開催するほどの書道愛の持ち主。うってつけの人物だ。こうして、命名の準備は整った。花まるの新しい船。その名も「夢来丸」。

花まる学習会 橋本一馬

 


まっしゅの直筆による船名。この字が船体に写される。

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