【無人島レポート-2023春-】小屋づくり⑤

【無人島レポート-2023春-】小屋づくり⑤

 12月にその年の最後の開拓団が帰ってしまうと、作りかけの小屋が残った。もうしばらく島に人は来ない。次のコースは5月だ。それまでに、カトパンと2人で使える状態にまで小屋を仕上げなくてはならない。でも、壁面まではほぼ完成しているから、あとは床と天井を作るだけだ。――そう高を括っていた。

 年が明けて2023年。雪国スクールも終わり、荒れやすい冬の海が穏やかになる隙を狙って島に渡る。さて続きをやりますかね、と最後の壁材を取り付けようとしたとき、異変に気づいた。高さが合わない。1枚目の壁の端と4枚目の壁の端が、1周まわってピッタリ合わない。一応、水平器を使いながら真横に壁を伸ばしてきたはずなのに、わりと有名なバンドが解散するくらいの音楽性の不一致、いや構造的な不一致が出ている。横幅3mの壁に対して、使用した水平器は30㎝。まあ何とかなるだろうと思っていたが、やはり短すぎたのだ。ものづくりの神は哀れな小屋ビルダーの横着を見逃してはくれなかったのである。こうして、小屋なぞぺー第2ラウンドが始まった。問題は「無人島で3mの水平をどうやって出すか?」。

 「おうおう、俺っちの3m水平器を使えよ」「勘ざます」「やっぱり必要だろ? レーザー水準器を買っちまえよォ~」などと群がってくる安易なアイデアたちを締め出したあと、落ち着いて考える。昔の建築、たとえば法隆寺は現代の測定機器がなくても正確に建造された。正確だから1000年以上経ったいまでも残っている。ヒントは、道具よりも知恵を使っていた時代にある。いろいろ調べた結果、水を使って水平を知る技術があることがわかった。「水平」とはよくいったものである。

 まず、透明なチューブ(昔は竹だったらしい)に水を入れる。するとその両端の水面は必ず同じ高さになる。このしくみを利用して、離れた2点の水平を確かめる。この方法を「水盛り式」という。終わり。これだけ原始的な道具なら、無人島でも使っていいだろう。方法が決まればあとは作るのみ。後日、必要な材料を揃えて道具を作り、カトパンと2人でエッサー、ホイサと作業を進め、3月には床と屋根、おまけにドアも取り付けて、倉庫としての体裁は整った。ひとまずの完成である。いままで手伝ってくれた開拓団のみなさんに感謝である。

 そのあとは、倉庫内に棚を作ったり、外壁に板を張ったり(これはコースに来た子どもたちや開拓団に手伝ってもらった)して、いまでは小屋全体がけっこういい感じになっている。ドアを開けて中を覗くと、壁一面にマジックで描かれたラクガキが見える。いままで小屋づくりに手を貸してくれた仲間たちが残していった絵やサインだ。必ず目に入るような目立つところにも、何でここに? と思うような変なところにも、大小さまざまな日付や名前、絵がかいてある。完成までには時間がかかったけれど、これが花まる冒険島のスタイル。いい小屋ができた。

花まる学習会 橋本一馬

 

ついに完成した無人島の倉庫。中はみんなのサインでいっぱい。

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