【“職人”の無人島レポート⑤】水不足、頂上、地図の実用性(来島)

【“職人”の無人島レポート⑤】水不足、頂上、地図の実用性(来島)

開拓団受け入れに向けて、カトパンとともに無人島へ向かった”職人”こと、橋本。
“職人”による無人島レポート第5弾です。

前回のレポートはこちら
【“職人”の無人島レポート④】岩樋さん登場、来島上陸(安芸津港)

サバイバルにおいて、「3の法則」というものがある。
空気がないと、3分間しか生きられない。
体温がないと、3時間しか生きられない。
水分がないと、3日間しか生きられない。
食料がないと、3週間しか生きられない。

これによると、「無人島で水がない」という今の状況は、3日後まで生きられるかどうかわからない程度に危機的な状況だといえる。大人1人が1日に必要とする水分をおよそ2Lとして、1泊2日で4L、2人分で-8Lのビハインドだ。どうしよう。

ただ、実際にはそれほど危機的な状況ではなかった。カトパンも私も、個人的に2L程度のスポーツドリンクやお茶のペットボトルを用意していたからである。加えて私のバックパックには、非常用の経口補水液が500ml常備してあった。ただ、命の危険はないといっても、生活水がない状態はそれなりに不便だ。手や顔を洗ったり歯を磨いたりする水はすべて海水でやることになるし、何より、真水がないと料理ができない。今夜は鍋なのだし。うーん、究極のポカリチゲか、至高の麦茶チゲか、迷うなー、と悩んでいたら、カトパンが島に残してあった物資の中から2Lの水を見つけ、水問題に決着がついた。ただ、この一時的な水への危機感は、後に我々にあるアイデアをもたらすことになる。

ひとしきり騒いだあと、拠点作りに入る。まずはテントを張り、濡れて困る荷物をすべて中に運び込んだ。次は、薪拾いをしておく。薪は、火を熾すときに集め始めるのでは遅い場合がある。野営では、天気が急変して乾いた薪が手に入らず、どうやっても火が熾せない、という状況がたまにあるからだ。そんなときは、ひもじい気持ちで寝るしかなくなる。アウトドアの教本には、必ず火の熾し方が書いてあるものだが、薪を集めるタイミングについての言及は、まずない。薪は「野営地についたらすぐ」集めておいた方がいいと思っている。

拠点を固めた後は、いよいよ作業だ。今回の目的は、第1次開拓団のための整備と、地図のテスト、島内の状況の把握である。まず、日が高いうちに島の内部に入ってみようということになった。

自作した1/2500地図が使い物になるのか。それを試すために、島の頂上を目指すことにした。ある程度の距離があり、今後も行く可能性が高い場所であれば、道中の安全確認も兼ねることができる。地図上で、おおよその現在地と頂上をコンパスで結ぶと、直線距離で175mだった。この間に6本の等高線が入るので、高低差60m、平均斜度は約35%になる。急な崖などは読み取れないので、この直線的なルートで行くことにした。ハイカットのブーツに履き替え、鉈とファーストエイドパックを腰に下げ、準備を整える。

森の中に足を踏み入れると、そこはまるで別世界だった。鬱蒼と生い茂った木々で見通しがきかず、日光も遮られていて辺りは暗い。気温も低くなったような気がする。足元は名前もわからない雑多な植物で覆いつくされて、地面の上にもう一つ地面が乗っているようだった。得体のしれない実が腐りかけてそこら中に落ちているのが見える。川口浩探検隊と藤岡弘探検隊がまとめて側にいるような期待感が辺りに満ち、息を吸うたびに体に入り込んでくるようだ。そんな中をコンパスの進行線に従って進んでいくと、やがて道らしき幅を持った傾斜が見えてきた。昔は島に果樹園があったというから、収穫するために使った道の名残かもしれない。その斜面を、コンパスを頼りに少しずつ前進していった。斜面は、道らしいといっても、少し平らな分、歩きやすいかも、という程度で、2~3m進んでは、鉈で蔓や枝を切り落とさなければ進めないような密度で植物が繁茂している。最も厄介なのはイバラで、無理に進もうとすると棘が体をひっかき、突き刺さってくるため、細いものでも無視できない。こんな調子で本当に頂上にいけるのかよ、と思ったというのはウソで、終始楽しさしか感じなかった。ここ数年で一番充実した時間だった。何十年も人が足を踏み入れていない場所に、自分の知恵と技術を頼りに乗り込んでいくことが、これほどおもしろいことだは思わなかった。幸福と喜びと充実と豊かさと没頭と興奮と楽しさとワクワクを鍋で煮締めたような時間だった。ずっとやっていたかった。そしてたぶんこれが、私が無人島に求めていたことだった。

そんな感じで私たちは藪を漕ぎ続け、やっとの思いで頂上にたどり着いた。そして、腐った根を踏み抜いて滑落しそうになりながら、急斜面をトラバースして拠点へ戻っていった。復路は、往路とはまったく違うルートになって途中で海岸に出てしまい、最後は靴を脱いで海沿いを裸足で歩いて戻ることになった。何度も転倒したせいだろう、気づくとボディバッグに入れていたスマホの画面が割れていた。往復で約2時間を要した。もう一度行けと言われても、同じルートで行ける自信はない。

地図はある程度機能したが、島内の見通しが悪すぎて目標物が決められず、現在地確認がほぼできなかった。しばらくはグーグルマップを併用した方が安全に動ける。今後の課題は、目印を増やすことだ。いくつかの場所でわかりやすい目印を発見しておき、それを地図に落とす。「大蛇の木」とか「ドクロ岩」とか。そうすることで、現在地を把握しやすくなり、コンパスで細かい補正が利くようになる。今後は、開拓団や子どもたちに楽しみながら目印を発見してもらえれば、地図が使いやすくなっていくはずだ。

私が途中で見たものについては、これ以上書こうとは思わない。 

(つづく)

第6弾はこちら
【“職人”の無人島レポート⑥】魅力の本質(来島)

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