【無人島レポート-2022夏-】社員開拓団④

【無人島レポート-2022夏-】社員開拓団④

 さまざまな教訓を残しつつ500ℓの水の輸送は完了した――そして開拓は続く。

 次にライガーにやってもらったのは、草むしりである。え? あんだって? ええ、地味ですよ、地味。チミは地味だと思うかもしれないが、これがなかなかあなどれない。夏の無人島では、2~3日もあればすぐに下草が伸びてきて地面を覆ってしまう。「地面が覆われるくらい何でもないじゃん」と思われるかもしれない。甘いよ、チミ。下草がはびこると何が起きるか。たとえば蚊が多くなる、ムカデに気づけなくなる、落とし物が見つからなくなる、露で足元がびしょ濡れになる、などちょっといやなことがちょっとどころじゃなく増えるのだ。これだけでもキャンプ生活の質は割と下がる。「じゃあじゃあ、除草剤とか撒いちゃえばいいじゃん」と思われるかもしれない。甘いよ、チミ。除草剤を撒けば何が起こるか。安易に効率を求めた機械化が始まって、その先は拡大解釈の繰り返しで行き着く先はチミのいつもの都市生活だ。無人島の開拓は「できるだけ人の手でやる」ところに魅力がある。誰もが除草剤を撒くためではなく、自分の手で根を掘り起こし草を抜きたくて島を訪れる。「誰なんだチミは」と思われるかもしれない。なんだチミはってか。チェックメイトだ。
 地味な作業を黙々と進めて夜。夕食のときのことだ。ライガーが「ふっふーん」みたいな感じで荷物のなかから新聞に包まれたお土産を取り出した。花まるの農業教育プロジェクト「みんなビレッジ」の畑で育てた採れたての野菜である。ニンニク、タマネギ、長ネギ。さすがライガー大先生。無人島味わい尽くしプランをすでに自分のなかで立てていたってわけだ。あたいらはもうお手上げだよ。というニュアンスの微笑みを交わしてから「わっほーい」みたいな感じでニンニクとタマネギをアルミホイルで包んで焚火に放り込む。長ネギはカトパンがそのまま手に持って火であぶってくれた。ほどよく直火であぶられた長ネギから湯気と香りが立ちのぼり、焦げ目が美味を約束する。まるごと一本のネギを手で持って、何もつけずにそのままかぶりつく。それが、このうえなくうまかった。ここ数年で一番うまいものを食べているという実感があった。3人でずっと「うめー」だけで騒いでいた。そのとき「生きててよかったなあ」と声に出た。寅さんによれば、この瞬間が生きる意味だという。そうかもしれない。いい夜だった。

 こうしてライガーは開拓に、食に、遊びに、島を楽しみ尽くして帰っていった。それは、ライガーが島で何をしたいのかをはっきりさせていたからだと思う。島は我々に何もしない。こちらの好みに合いそうな提案をしてくるようなこともないし、何とか気を引こうと煽り立ててくるようなこともない。現代のプロモーションについてどうこう言いたいわけではない。自然のなかでは、自ら楽しみを見出す力がただ明らかになる、ということなのだと思う。

花まる学習会 橋本一馬

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