【無人島レポート-2021初夏-】醤油メシ(おまけ)

【無人島レポート-2021初夏-】醤油メシ(おまけ)

 翌朝。カトパンとダンチクの根を掘り返していると、いつもと違う感じがした。ふたりとも、なんか力が出ない。動きがゆっくり。疲れているのかな?まあ昨日は山の向こうまで行ったし、穴掘りは力仕事だし。などと思って納得しかけたとき、カトパンが声を上げた。「ああ!米しか食べてないからじゃないですか!」「確かに!」

 なるほど。食べ物でこんなにも身体のコンディションが変わるものなのか、と栄養バランスへの興味は湧いたが、力は湧いてこない。作業のペースが変わらないまま昼近くになったとき「海に何か捕りにいきましょう」とカトパンが意を決したように言った。かっこいいぜ。

 しかし、磯に来てみたものの、お腹を満たすような生き物はなかなか見つからなかった。私の動きは次第に緩慢になり、さらなる省エネモードに入っていった。当たり前のことだが、狩猟採集をするにも体力がいるのだ。私は食べ物を探すふりをしてゴロゴロするのにちょうどいい角度の岩棚とかを探し始めていたが、逆にカトパンはゴーグルを持ってきて磯に潜り、生き物を探していた。かっこいいぜ。

 すると、カトパンが「いたー!」と歓声を上げた。海のなかから何かを引っ張り上げようとしているが、なかなか出てこない。何がいたんだ、と駆けつけると「切れたーっ!」とカトパンが手に握っているものを見せた。細長くてクネクネしている。たくさんの吸盤。タコだ。以前どれほど探しても見つからなかったタコを、カトパンは諦めずに探し続けていたのだとそのときに気づいた。かっこいいぜ。

 カトパンが2本目の足をちぎったところで、私は交代するために海に入った。水深は腹のあたりまであるが、潜らなくてもタコにはなんとか手が届く。逃がさないようにギリギリまでカトパンが手で押さえているところに手探りで寄っていき、タコをつかんだ。タコは2本の足を失いながら、なおもビッタリと海中の岩の隙間に張りついていた。普通に引いてもはがせそうにない。タコも命がけなのだ。そう思ったとき、自分のなかでカチリと何かが切り替わった。指先にこれ以上ない力をこめて、タコの足を握り込む。「絶対に逃がさない」という意思を指の力にのせて伝える。言葉が通じずとも力でこの意思を伝える。「もうダメだ」「逃げられない」「諦めるしかない」お前がそう思うような力を入れてやる。全力。持てる力のすべてを込める。相手が命をかけるなら、こちらも生き物として全力を出す。生命力の張り合いをしようぜ。

 渾身の力でタコをつかんで引くと、さらに2本の足がちぎれた。タコが墨を吹く。目くらましとしての効果はすでにないだろう。しかし、持てる力のすべてを出すことには意味がある。だからこの墨には意味がある。俺はこの墨に敬意を払う。足の数が半減して、しがみつく力も半減しているはずだ。そろそろか。いや関係ない。全部の足をちぎってもお前を捕る。そう決めている。いままでにない手ごたえ。重みのあるものが剥がれていく感触。そして、ついにタコを引き上げた。

 やったー、とタコを手に拠点に戻る。闘争本能が搔き立てられて動物に近くなっていたのか、なんかもう単純な言葉しか出てこなくなっていた。タコの足はちぎれたあとも動いていて、触ると吸盤が吸いついてきた。すげえ。「もう食べてみよう」野生状態の我々は、そのままちぎれた足を口に入れた。うめえ。タコの本体は丸ごと網焼きにして食べた。すげえうめえ。しばらくアホになる可能性があるが、タコを食べてみたい人は、ぜひ挑戦してもらいたいと思う。

 

カトパン、執念のリベンジ。そのままかぶりつく。

 

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