【無人島レポート-2022冬-】小屋づくり③

【無人島レポート-2022冬-】小屋づくり③

 北にもっちー、南にきむさん、西にまささん、東に職人。われら鉄パイプ四天王の度重なる微調整の末、ついに4本のパイプがあるべき位置に収まり、ゆがみのない四角が完成した。どの角からもパイプの端は飛び出ていない。4つの辺の長さがすべて等しい四角形である。やったぜ。われわれは無人島というワイルドこのうえない場所で、測量機器が巻き尺だけというワイルドな状況にありながら、鉄パイプ合わせというワイルドな手法を用いて正確な四角を描いた。ワイルドだろう? これで正確な土台の上に正確な小屋が作れる。いやー大変だったね、なんて感じでお父さんたちと一息つこうとした瞬間、何かいやな予感がした。「家のエアコン消したっけ?」みたいな。「食べちゃったけどお金足りるっけ?」みたいな。「これは本当に真四角なのか?」

 うーん。たとえば極端な話、巨人が正方形の対角をつまんでつぶしていき、針のような細長い四角にした場合、形は全然四角じゃない。でも辺の長さはみんな同じで変わっていない。そこでやっと気づいた。これは「ひし形」だ。正方形に見えるが、厳密にはそうとは言い切れない。正方形は、4つの辺と4つの角が等しくなければいけないからだ。基本的な条件を見落としていた。なぜだ? そもそも、鉄パイプを使うことになったのは勘で直角を出そうとする不毛な作業に耐えられなくなったからだ。曖昧な感覚の代わりに、明瞭な基準を使ういい方法だと思って飛びついた。しかし、そのとき解決すべき問題もすり替わったのだ。直角を出すことは、直角を出すことでしか解決しない。

 しかし、一体どうやって直角を出す? 手持ちの道具は巻き尺だけだ。やはり、プロの大工が使うような測量機器を使って解決するしかないのか? 「ないではなくあるを見るべし」という無人島の理念に反して。耳元で何かが囁く。「早く買えよォ~このまま直角が出せなくてもいいのかァ~?」。道具を買えば、島の理念を差し出せば……ほ、本当に直角を出してくれるのか……? 「理念と引き換えのギブアンドテイクだァ~買えよ……早く買え!」――だが断る。

 おれの名を言ってみろ。おれの名が職人なのは、元家具職人だからだ! 巻き尺だけで矩(直角)を出す方法を、知らないわけがないだろう!! 「じゃあ何で早くやらないの?」と言われるとそれまでなのだが、いま思い出したのだから仕方ない。もう少しで「レーザー水準器を買いましょう」とか言いそうだった。あっぶねえ。
 さて、たとえば額縁を組み立てるようなとき、職人たちは各部の直角をどう見極めるのか。答えは対角線である。2つの対角線を測り、同じ長さになれば四隅は直角になる。テーブルでもキャビネットでも、四角い構造を組むときは対角線を見て直角を調整するのだ。これをいまここで応用する。今度こそ勝ったッ!

花まる学習会 橋本一馬

 

正方形とひし形の違い。
将来、無人島で役に立ちます。

 

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