【無人島レポート-2022夏-】社員開拓団③

【無人島レポート-2022夏-】社員開拓団③

 結局水は出たのかって? ええ、出ましたよ。ちゃんと。でも、いまはもうポンプは使っていないんです。なぜって――「水が出ないYO…」テンションがしぼみ切ったDJの気分で、一度ポンプを止めて原因を調べる。すると、呼び水が入っていないことがわかった。呼び水とは、ポンプ内の空気を排出するために充填する水のことである。中に空気が残っているとポンプは空回りして水を吸い上げることができない。水を入れ、気を取り直してポンプを始動させると、ぺちゃんこのホースを膨らませながら水が走っていくのが見えた。成功だ。機械の力で水は順調に車から船へと送り出されていく。もう500ℓもの水を手運びしなくてもいいんだ、とピラミッドの完成を知った石工のように3人で喜ぶ。巨大なタンクの水を移し終えると、残りの物資を積み、準備が整った。ほぼ定員に近い荷を満載して船がゆっくりと動き出す。

 横綱のような重量感で船は波を蹴散らして進み、時間をかけて島に着いた。ブイに係留してロープを手繰り、砂浜に寄せる。ザスっと小気味いい音がして船が着岸した。それを待ちかねていたようにライガーが舳先から飛び降りて、歓声を上げる。「本当に待ち望んでいたことをしている人の姿」というのはこういうものなのだろう。ライガーは浜に降りたとたん、まっすぐに入り口に向かい、子どものように声を上げてしばらく辺りをまわっていた。私はこれから降ろす水や荷物の算段をしていたが、それは私がこの島に慣れてしまっていることを意味していた。そうなのだ。荷物を降ろすのはあとでいい。これが初めて島を訪れる人間の、一度だけの瞬間を大事にするということだったのだ。

 水以外の荷物を降ろし終えると時刻はもう昼をまわり、12チャンで午後のロードショーが始まるくらいになっていた。開拓前にまず腹ごしらえを、ということで遅めの昼食をとることにしたのだが、ここでもライガーはすごかった。「初めて無人島で食べるもの」を心に決めていたのである。日清、カップヌードル。無人島で沸かしたお湯でそれを食べること。開発者である安藤百福氏の開拓者精神に想いを馳せながら、海を見て頬張るヌードル。それは格別の味で、一度しか訪れない体験だったのだろうと思う。無人島の楽しみ方は、奥が深い。

 腹が満ちれば戦ができる。いよいよ給水タンクの陣である。しかし、これにはかなりの時間がかかった。高さが逆転したからである。海は常に陸より低い。車から船へは下りだったからよかったものの、船から島へは上りになる。さっき下がった分、今度は上がらなければならない。黒縁メガネをかけた七三分けの無表情な法則が運動を位置エネルギーに正確に両替する。水はゆっくりと長いホースを上っていき先端まで上り詰めると、このために登ってきたと言わんばかりに滑り出したバックカントリースキーヤーのようにタンクの底へ落ちていった。我々は待ち、ポンプは働いた。文明は偉大だった。だが、みんな薄々気づいていた。3人で手運びしたほうが早――そこから先はよく覚えていないんですよ、刑事さん。

花まる学習会 橋本一馬

 

カトパンが手運びしていた大量の水。ポンプ化は成るのか。

 

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花まる子ども冒険島
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そこは、野外体験の究極の場となる。
強い『心』と自分の『目』を磨き、『自分の言葉』で語れる人に。
心と身体を強くする、花まる子ども冒険島が、いま始まる。
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