【無人島レポート-2022春-】現地集合②

【無人島レポート-2022春-】現地集合②

 厳地珠烏合:現地集合という言葉の由来が、中国秦代にさかのぼるという説がある。不老不死を求めた始皇帝は大陸各地に霊薬の探索を命じたが、いつまでたっても見つからない。死罪を恐れた家臣たちは、霊薬は人がたどり着けないほど厳しい土地「厳地」にあるのだという消去法的弁明を繰り返すことで難を逃れようとし、結果的にそれが通説になった。加えて、練丹術において霊薬の原料とされた「珠」は、陰陽均衡の摂理によって陰兆となる「烏」を引き寄せると信じられていた。そのため、皇帝の褒美を独り占めしようとした者たちの多くは烏の集まる厳地を単独で目指すようになった。これが現地集合の由来であるという。――民明書房刊「まだある 誰も知らない中国故事」より

 水銀のような車体を滑り込ませて、新幹線が時刻ちょうどにホームに到着した。降車位置にはすでにカトパンが待機している。目立つように赤いスタッフシャツを着ていたのだが、ここで想定外の事態が起きた。あたりを歩くカープファンと見分けがつかないのである。カトパンは広島駅で「KATOPAN」という謎の選手のユニフォームを着たニセサポーターと化していた。これで目印になるのか。一抹の不安をよそに、チャイムが鳴り宇宙船のように新幹線のドアが開く。そして次々に子どもたちが降りてきた。
 みんな緊張した面持ち。それもそのはず、これは誰かについて行けばいいという単純なツアーではない。自然と真剣になる。名前を確認し、全員無事に揃っていることを確かめる。乗り遅れも乗り過ごしもなし。この瞬間、小学生にしてひとりで新幹線に乗って広島へ行くという大仕事を子どもたちは見事にやり遂げたのだった。それは同時に、勇気を持ってわが子を送り出したお母さんやお父さんたちの想いが結実した瞬間でもあった。

 ひとり、印象に残っている子がいる。その子はこちらが指定した車両ではなく、そのひとつ隣の車両に席を取っていた。空席がなかったわけではない。たぶん、独りになりたかったのだと思う。人付き合いが嫌いだとか、そういうことではない。初めて独りで新幹線に乗って遠くへ行くという特別な体験を、徹頭徹尾、自分の力だけでやってみたかったのだと思う。ヒントを見ずに自力で解きたい、そういう気持ちに似ている。

 しかし、それはあくまで私の想像だ。本人に確認したわけではないし、確認はできない。そうした個人的な決めごとは、他人がみだりに触れてしまうと壊れてしまうことがあるからだ。大人が感動したいからという理由で暴いていいものではない。だから本当のことはいまでもわからないままだ。でもそれでかまわない。決意はただ密かに果たされることを待っている。

花まる学習会 橋本一馬

※「民明書房」という出版社は実在しません。書籍名および冒頭の故事はすべて橋本の創作です。

 

広島駅に到着する「のぞみ」。コース初となる現地集合の瞬間。

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