【無人島レポート-2021初夏-】醤油メシ⑤

【無人島レポート-2021初夏-】醤油メシ⑤

 夕方。拠点に戻ると、醤油メシの支度をした。米、水、以上。あとは炊きあがるのを待つだけだ。ナベを火にかけてしまうとやることがなくなってしまったので、ちょっと釣ってみるかと竿を出してみたら、カトパンのほうに小さなコチがかかった。丸ごと焼いておかずにする。箸はなかったので、その辺の竹からナイフで削り出した。炊きあがった白米にコチと竹箸を添えてみると、かえってひもじさが増したように見える。なぜだ。ともあれ、準備は万端。最後は傍らに醤油。これで揃った醤油メシ。いざ、食うべし。

 炊きたてのご飯がごちそうに見える。ほかほかの白米の上に醤油を垂らすと、湯気とともに広がってきた香りが顔を包む。ほどよく醤油がまぶされたところを箸でとり、口に運ぶ。ンまぁーい!ああ、幸せ。ご飯一口でこんなに幸せになれるとは。おまけに、入れてないのになぜかほんのりバターの香りがする。子どもの頃好きだった「バター醤油ご飯」の思い出が記憶の底で舞い上がったのかもしれない。マドレーヌと紅茶にできるのなら、白米と醤油にだってできるはずだ。疲れのせいか、さらに醤油がほしくなる。「もうやめなさい」という人もいないので、その後も交互に醤油をかけかけ、ふたりで醬油メシを掻き込んだ。

 むしゃむしゃ。醤油メシは、家では再現できない。ただ白米に醤油をかけたものではないからだ。むしゃむしゃ。いい風景を見ながらの食事はおいしくなる、と言いたいわけではない。もちろん味もおいしい。むしゃ。しかし、醤油メシの本当の価値は、味ではなくありがたみにあるのではないかと思う。食があること自体へのありがたみ。それは、風光明媚な場所への観光ではなく、無人島という文明から離された環境に身を置くからこそ得られる感覚だ。醤油メシは、食事でありながらそんな蒙を啓く体験でもある。いままで、メシを「食べさせてもらってきた」子どもたちが、初めてメシを「食べて」何を感じるのか。そこに「メシが食える大人」の核になる重要な意味が潜んでいる気がする。むしゃむしゃ。醬油メシは、無人島を象徴する食だ。むしゃむしゃしながら、そんなことを思った。

 

無人島を象徴する食、醤油メシ。箸は竹。

 

星空の前に訪れる鮮やかな夕焼け

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