【“職人”の無人島レポート④】岩樋さん登場、来島上陸(安芸津港)

【“職人”の無人島レポート④】岩樋さん登場、来島上陸(安芸津港)

開拓団受け入れに向けて、カトパンとともに無人島へ向かった”職人”こと、橋本。
“職人”による無人島レポート第4弾です。

前回のレポートはこちら
【“職人”の無人島レポート③】買い出し、花まる丸(安芸津町内 スーパーマーケット)

約束の11時に港に着くと、スウェットパンツとフライトジャケットを着た男性の姿が見えた。それが岩樋(いわひ)さんだった。挨拶を交わすと、岩樋さんはポケットからまだ温かい缶コーヒーを2本取り出してカトパンと私にくれた。「出来る」と毛筆の漢字で思ったその瞬間、私はグッドウィルハンティングという映画のワンシーンを思い出していた。ベンアフレックが不良仲間の主人公を車で迎えに行くとき手にしているあのコーヒーは、コミュニケーションとは何かを教えてくれる。私はすぐに、この少し幼さの残る青年に好感を持った。

岩樋さんは今年で21歳になるらしい。海が好きだからという素直な理由で、そのまま地元で海の仕事に就いた。カトパンがこの愛すべき船乗りと出会ったのは偶然で、たまたま寄ったたこ焼き屋の店主に「船を動かせる人を探している」と話した際、紹介されたことがきっかけだった。岩樋さんに限らず、今回の無人島プロジェクトに手を貸してくれる仲間たちは、地元の方々のつながりによって増えているようだ。これは、地元のみなさんが親身になって世話をしてくださる、いい人ばかりだということもあるのだろうが、カトパンのコミュニケーション力によるところが多分にあるのだと思う。

安芸津港の桟橋に移動し、フェリーが発着する合間を縫って3人で素早く荷物を船に積み込む。すべての荷を積み終えたことを確かめてからロープをほどき、エンジンをかける。左手で舵輪を回し、右手でスロットルを前に倒すと、エンジン音が高まり、船はゆっくりと桟橋を離れていった。今、船が出たのだ。

空は晴れ、海は穏やかで、船は順調に進んだ。後ろを振り返ると、大きく広がっていく航跡の向こうに、港が小さくなっていくのが見える。来島へは20分ほどで到着するはずだ。カトパンが操船を、その隣で岩樋さんが島へのルートについてアドバイスしている。海の男たち。名づけるならそんな光景だ。やがてエンジン音と風を切る音が大きくなり、少し離れていた私には2人の会話が全く聞こえなくなった。私は話に入るのを諦めて、しばらく海を眺めていた。

上手く言い表せないが、海を走る船は美しい。海面はゆっくりと揺れ続けているが、船は直線的にその上を貫いて進む。それぞれに独立したパートが同時進行していき、全体としては調和しているその様子は、音楽のようでもある。岩樋さんはこういう世界に生きているのだろうか。私も海のそばに生まれていたら、船乗りになっていたかもしれない。

前方に見える島のうち、最初はどれがそうなのかわからなかった来島が、次第に正面に大きく見えてきた。東側から回り込むように島に近づく。近づくにつれ、島の量感が増してくる。でかい。視界に入りきらない。木々が膨れ上がるように空へ広がり、その勢いが目に迫ってくる。生命のエネルギーが放たれて、こちらへ向かってくるようだった。画面で何度も見ていた島が、いま目の前にある。これは、夢ではない。

波が穏やかだったため、錨を下ろさずにビーチに船を着けることになった。船をギリギリまで寄せ切ると、カトパンと私は、浅瀬に飛び降りた。11月だというのに、ウォーターシューズに入ってくる海水が温かい。急いで荷物を浜の上へ降ろすと、すぐに堤防の上へ揚げ始める。慌ただしい荷揚げが終わってから、ようやく「あ、上陸してたわ」と気づいた。こうして私は、感動に浸る間もなく、なし崩し的に無人島へ初上陸を果たした。

岩樋さんは船を出して安芸津へと戻っていった。しばらく船を目で追っていたが、岩樋さんは1度も振り返らなかった。渋いぜ。私は脱帽して、島に一礼をする。

さて、やるかと気持ちを新たにした瞬間、カトパンの叫び声が島に響いた。「橋本さん、水、忘れました」

(つづく)

第5弾はこちら
【“職人”の無人島レポート⑤】水不足、頂上、地図の実用性(来島)

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