般若、天狗、大黒天。隣を見れば水牛の角。気を抜けば博物館の体。いや、ここは広島だ。無人島の拠点。ハッと我に返ると倉庫のなかに立っていた。掃除中である。新しい事務局、といっても現状はまだ年季の入った空き家に過ぎない。母屋のあちこちに残された大量の家財をまずどうにかしなければ、まともに仕事もできない状況なのである。ということで、物という物をひとまず隣にある大きな倉庫に移す作業をしていた。
それにしても、人の住まなくなった家はこうも廃れるものなのかと思う。床は見るからに汚れていて埃が積もり、初めは靴を脱いで上がるべきかどうかさえ迷うくらいだった(スリッパはこういうときのためにある)。家のなかには脈絡のない調度品が多数残されたままで、1階も2階も雑然としている。食器が満載された茶箪笥や、服が入ったままのクローゼット、積み上げられた文庫本、アナログレコードの山、瀬戸内寂聴のあれこれ、抜けのある工具セット、小判のレプリカ、大阪城のペナント、請求書の束、2周まわってトレンディなポスター、もはや何年物かわからない梅干しや味噌、酒の類。洗面台に残されていた古い洗剤の包装に触れば、音もなく崩れてそのまま時間の一部になる。とにかく掃除だ。徹底的に、掃除だ。
トヨタ曰く、整理とは不要なものを捨てること也。こんまり曰く、ときめかないものは手放すべし。私曰く、どうでもいいから倉庫へ移動だ。要不要はあとで決める。いま必要なのは仕事場なのだから。毎日、午前中いっぱいを母屋の掃除にあてると決め、あらゆるものを倉庫へ運び続けた。一つの部屋から物を出し切ると、掃除機をかけて濡れ拭きをする。環状7号線の中央分離帯にあるポールを拭けば、これくらい黒くなるのかもしれない。しかしこれは畳だ。たぶん。
毎日まいにち、運んでは拭く。少しずつ使える部屋が増えるにつれ、我々3人の仕事部屋や備品の保管場所も広がっていった。そしてそれが楽しくなっていく。ところがあるとき、憑りつかれたように掃除をしていたら、会社の個人面談をすっぽかして叱られた(携帯に溜まった着信履歴というのは、いつ見ても恐ろしいものだ)。子どもたちのなかには、大人になると叱られなくなると思っている人がいるかもしれないが、それは単に自分を叱る人がいなくなるからであって、必ずしも叱られるようなことをしなくなるということではない。だから大人になったら、自分で自分を叱れるようにならないといけない。でないとメシが食えなくなる。みたいなことを考えていたらまた時間が過ぎていた。いけねえ、会議の時間だ。
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花まる子ども冒険島
モノであふれた社会とはかけ離れた島、無人島。
今日を生き抜くために、頼りになるのは自分の心。
そこは、野外体験の究極の場となる。
強い『心』と自分の『目』を磨き、『自分の言葉』で語れる人に。
心と身体を強くする、花まる子ども冒険島が、いま始まる。
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