【無人島レポート-2021初夏-】醤油メシ④

【無人島レポート-2021初夏-】醤油メシ④

 山頂から南側のエリアは、ほぼ斜面か崖しかない。滑落しないように注意しながら、つづら折りに下りていく。道中、ビワを見つけるたびにもぎ取って「うまー」と水分補給をしていたのだが、そのなかに普通のサイズの2~3倍ほどもあるひときわ大きな実がなっているのを見つけた。南側で日当たりがいいせいかもしれない。野生のビワでもこんなに大きくなるのか、と感動したあとビワの譲り合いが始まった。「いやここは職人が」「いーやカトパンこそ」と、ひとしきり親戚同士の「ここはうちが払うわよ」的な譲り合いを繰り返した結果、譲り負けて私が食べることになった。カトパンの譲り力はおばちゃんにも引けを取らないものがある。「うへへ」と盗賊のような笑いを浮かべながら丁寧に皮をむくと、大きくみずみずしい果肉が現れた。いただきまーす、と口に運ぼうとして手を動かしたそのとき、斜面でよろめき体勢がガクッと崩れ、その拍子にビワが手を離れて、土まみれになりながらものすごいスピードで転げ落ちて見えなくなった。一瞬の出来事だった。言葉にできない。こんなとき、ちょうどいい四字熟語か何かがあったはずだ。たとえばそれは?たとえばそれは、小田和正。

 ビーワンショック、というギャグを思いついたが何の慰めにもならなかった。そのまま南のビーチに到着する。当然といえば当然だが、人気がない。そもそも無人島なのだから当たり前だと思うかもしれないが、案外そうでもない。というのも、来島はいまでこそ無人島だが、昔は果樹園として利用されていた。その当時の名残はいまも島の所々で目にすることができる。だから、人がいたという時間の面影のようなものを感じることがある。しかし、このビーチは本当に手つかずのまま、という感じだ。島のなかでもかなり原始的な場所といえるかもしれない。船では来られないし、あえて徒歩でこんなところまで来るメリットもない。ひょっとしたら、最後にここに人が来てから、リアルに100年以上たっているのかもしれない。そう思うと何か不思議な感じがした。どれほど人工衛星が地球を隅々まで地図に起こしても、まだ人が足を踏み入れていない場所はある。何千年も前から、まだ一度も人間がそこに立って五感で捉えられたことのない場所があるとすれば、それは月よりも遠い場所だ。誰も行こうとも思わないがゆえに前人未踏。そんな場所が意外と身近にあるのかもしれない。だとすれば、インディ・ジョーンズは死んでいない。まだ冒険は死んでいないのだ。それにしても、行く必要のない場所に行きたくなるのはなぜだろうか。好奇心というのは、宇宙のなかでもかなりおかしな振る舞いをするエネルギーだと思う。

 拠点に戻ると、夕方になっていた。まだ日があるうちに夕食の準備を始める。これからいよいよ、醤油メシを食べるのだ。

(つづく)

 

ウラベニガサダケ。
シカタケともよばれる食用キノコ。
全然はえていない。
キクラゲ。
スーパーにも売っている食用キノコ。
クラゲではない。

 

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