【無人島レポート-2022春-】引っ越し②

【無人島レポート-2022春-】引っ越し②

 葛飾北斎は93回、江戸川乱歩は46回、私は今回で15回目になる。何かといえば引っ越しの回数である。ちなみに、日本人の生涯引っ越し回数は平均して約3回だという。偉人たちに比べればまだまだ少ないが、それでも私の引っ越し偏差値(何それ)はたぶん3ケタいってると思う。別に、放浪していたわけではない。単純に社会人になってから転勤が多かっただけだ。関東を中心に、東は茨城、西は兵庫まで住んだことがある。今回の広島移住で、西の記録を更新することになった。

 神奈川には、5年住んだ。安くて映画館が近いからという理由で選んだ家だったが、引っ越した年にその映画館が閉館した。やれやれだぜ。それでも裁くのはオレのエンゲル係数だと住み続けた5年の間にキャンプのおもしろさに出会い、それも手伝って荷物が増えた。引っ越し業者に「1家族分の量はありますね」と言われるくらい増えた。でも吾輩はひとり暮らしである。家庭はまだない。

 金曜から荷造りを始めて、月曜の積み込みに間に合わせた。つもりがちょっと間に合わなかったので、荷物を運ぶ無口なお兄さんたちから放たれる王者山王のゾーンプレス的圧力の隙間を、巧みなトラベリングですり抜けながら荷造りを続けて何とか荷物を出し切った。その日はカーテンのなくなった部屋で余ったダンボールを敷き、服を枕にして寝袋で眠った。ひもじい。なんで私は街中で無人島みたいなサバイバルをしているのか。あっ、コンクリートジャングルってこういうことなの? 翌朝床で目を覚ますとダンボールに染みついた皮脂が物語るおじさんの悲哀。その日は一日がかりで部屋の掃除をし、それが終わるとブレーカーを落として扉を閉め、最上階に上がり大家さんに菓子折りと鍵を渡すと、横浜駅からその日最後の広島行きの新幹線に乗った。

 たぶんあの大家さんとはこの世で最後の別れになったと思う。多くの場合、人は今生の別れを自覚できない。そしてそれは特別なことではなく、長い間自然に繰り返されてきた別れのひとつのかたちで、私が神奈川を出ることでもう死ぬまで会うことのない人たちがほかにもいるはずだった。だから人と再会することには、私にとって特別な意味がある。

 昨日今日明日、変わりゆく私。三都物語を越えて姫路、さらに進んで倉敷、を通り過ぎて福山。4時間半後の広島駅のプラットホームに降りたときにはもう真夜中だった、いや、真夜中じゃけえ、新居のカギは受け取れず、そのまま広島市内で1泊した。翌朝、電車で安芸津に向かう。そこでカトパンが待っているのだった。そして無人島も。

 

広島駅の新幹線改札口。広島との再会。

 

【無人島レポート-2022春-】引っ越し① を読む

【無人島レポート-2021初夏-】醤油メシ をはじめから読む

【無人島レポート-2021初夏-】ドラム缶風呂 をはじめから読む

【“職人”の無人島レポート】をはじめから読む

 

花まる子ども冒険島
モノであふれた社会とはかけ離れた島、無人島。
今日を生き抜くために、頼りになるのは自分の心。
そこは、野外体験の究極の場となる。
強い『心』と自分の『目』を磨き、『自分の言葉』で語れる人に。
心と身体を強くする、花まる子ども冒険島が、いま始まる。
https://hanamarumujinto.wixsite.com/home
\最新情報を更新中!/ 花まる子ども冒険島Instagram https://www.instagram.com/hanamaru_mujinto/

花まる学習会 野外体験サイト
https://hanamaruyagai.jp/

無人島開拓記カテゴリの最新記事