2023年3月 「忘れられない野外体験」　箕浦健治

私が忘れることのできない野外企画。それは、18年前に開催した「3月雪国スクール」です。
私が野外体験部部長に任命されて初めての野外企画でした。

雪遊びのコースに小学生80名が参加。そのなかに唯一の中学生参加者、Hくんがいました。
Hくんは友人や学校の先生との意見の違いから学校に行けなくなっていました。小学生のときに楽しかった雪国スクールに参加して少しでも元気になってほしいというのがＨくんの親御さんの願いでもありました。

宿に到着して宿のご主人にＨくんを紹介しました。「覚えているよー！また来てくれたか。ありがとう。今日からたくさん手伝ってくれるんだってな。中学生だから力もあるしな」ご主人の言葉を聞いたＨくんはとても嬉しそうでした。

夕食後の自由時間、「おーいＨ、手伝ってくれー」というご主人の声に「はーい！」と聞いたことがないくらい大きな声で返事をするHくん。二人は大きなそり滑りレーン作りにとりかかりました。「そっちの雪をこっちに運んでくれー」「ここに階段を作るぞ！」「Hは体力があるな」「Hは手を抜かないで一生懸命やるな、えらいぞ」と2時間ぐらいの作業中、宿のご主人がHくんに声をかけ続けていました。

二人の頑張りで、立派なソリ滑りレーンが完成しました。辺りは真っ暗になっています。完成したソリ滑りレーンのうえで、ご主人がHくんにジュースを渡しました。「さっき言っていた学校の話。俺はよくわからないが、Hは人のためにちゃんと頑張ることができる人だということは間違いないと思う。明日、みんな喜ぶぞ。なっ、楽しみだな。H……ありがとうな。俺はHと出会えてうれしいよ。いろいろあるけれど、俺はHの味方だから。何かあったらまた来ればいい」 暗闇でご主人の言葉がHくんに届き、Hくんのすすり泣く声が聞こえていました。

私はHくんの傍に行き、肩をたたきました。 それを見たご主人が「H、こうやって俺以外にもHのことを心配している人がたくさんいる。みんなHの味方だ。どんなことがあってもそこにいる花まるの先生はHを見捨てたりはしない」と言いました。 その言葉を聞いたHくんは、肩に置いた私の手を優しく握り、そして呟きました。 「俺、もう一回頑張ってみるよ」

雪国スクールから帰るとHくんは学校に行くようになり、生徒会長に立候補するまでになったと、しばらくしてお母さまから教えていただきました。

3月の野外企画が近づくと、いつもＨくんを思い出します。 「先生たちの仕事、大変だけれど素敵だね、俺もいつかそういう仕事をやってみたい」と、ソリ滑りレーンで楽しく遊ぶ子どもたちを見ながら語ってくれたHくん。 「今度ここに来るときは、もっと立派になってきます。待っていてください」と、とても清々しい表情で帰っていったHくん。 「もう十分立派だよ」と心のなかで送ったエールに、あたかもこたえるかのように「ありがとうございました！」と振り返り手を振り続けるＨくんの姿は、いまでもずっと、私の心に残っています。


さぁ、いよいよ2023年度ラストを飾る「3月春の野外企画」の募集が始まります。 花まるグループの野外体験は、バカンスでもなく、ツアーでもない、生きる力を育む「スクール」です。
この1回の野外体験が、将来にわたって、子どもたちの力になることを願って。

みなさまに会えることを楽しみにしております。


花まるグループ　
野外体験部部長　
箕浦健治(ファイヤー)