2025年度の花まるサマースクール、現場からのレポートをお届けします!
今回は、「カトパンと行く!究極の野外体験 無人島サバイバル」のコースを引率した「カトパン」のレポートです。
はじめて自分の手で運んだ水の重さ。
火をつけるために何度も挑み続けたこと。
眠れない夜、誰かの言葉に救われたこと。
光のない暗闇に、仲間とともに灯した火が、どれほど心強かったか。
それは、誰かが用意してくれた「体験」ではありません。自分で選び、自分で決め、ときに仲間とぶつかりながらも、考え抜いて手にした「本物の時間」でした。誰かに与えられるのを待つのではなく、自ら動き、考え、つくり出していく。
たとえば「1泊2日か、2泊3日か」。
無人島滞在日数の決断も、大人が決めるのは簡単です。けれど、あえて子どもたち自身に委ね、とことん時間をかけて話し合いました。妥協せず、真正面から意見をぶつけ合い、納得できる答えを探し続けたその時間こそが、「メシが食える大人」への大きな一歩につながると思っています。
そして4日目には、終戦から80年を迎える今年、広島の平和記念公園と原爆資料館を訪れました。 家族を一瞬で失った人々。
日常のすべてが崩れ去った、あの日の記録。
「安心できる場所があるからこそ、挑戦できる」
その前提が、どれほどかけがえのないものであるかを知った子どもたち。
そして、あたりまえの暮らしが、どれほどの愛によって支えられているかに、気づいた子どもたち。
「自分にとって本当に必要なものは何か」
「なぜそれが必要なのか」
「生きるって、どういうことか」
そんな問いに、毎日、真正面から向き合いました。
そこに詰まっていたのは、不安、葛藤、失敗、勇気、信頼、挑戦、そして確かな自信。
2回目の無人島滞在では、多くのものを「引き算」して手放しました。そして、それ以上に大切なものを、自分の手で掴み取っていきました。
もちろん、困難もありました。火がつかない。暑い。虫に刺されて痒い。お腹が空いた。灯りがない。眠れない。疲れた……。でも、心が折れそうになるたびに、そっと手を差し伸べてくれる仲間がいました。一緒に泣き、励まし合い、「もうひと踏ん張り頑張ろう」そうして、少しずつ前へと進んできました。
蛇口から出る水のありがたさ。
明かりがあることの安心感。
一杯のごはんのあたたかさ。
仲間からの「ありがとう」という一言の、計り知れないパワー。
そして、家族という存在の、底知れぬぬくもり。
「不便」というフィルターを通して見えてきたのは、日々の暮らしに潜んでいたたくさんの「ありがたさ」と「愛」でした。普段は当たり前になりすぎて、見落としていたものばかり。
そんな時間を噛みしめながら迎えたコース終盤、こんな声があがりました。
「みんなで、無人島に究極の歴史を残そう!」
そうして始まったのが、無人島に一本の木を植えるという計画でした。
「だったら、『平和の象徴』を植えようよ!」
選ばれたのは、オリーブの木。
戦争の記憶にふれた時間と、自分たちの挑戦が、まっすぐに重なった選択でした。
そして彼らは、その木に名前をつけました。
「究極の19人 〜セミの素揚げを添えて〜」
平和だからこそ、挑戦ができる。
安心して帰る場所があるからこそ、怖くても一歩を踏み出せる。
今回の挑戦は、決して誰かが敷いたレールの上ではありません。
子どもたち自身が、自らの力で切り拓き、仲間とともに乗り越えた時間。
誰かに決められた「正解」ではなく、自分たちの手でつくりあげた物語。
その結晶のような7泊8日を、子どもたちは口をそろえて「究極だった」と振り返ります。
何よりもこの挑戦ができたのは、お子さまの背中を信じて、送り出してくださったご家族のみなさまのおかげです。
「きっとこの子は、大丈夫。」
そう信じていただけたからこそ、子どもたちは無人島で、大きな一歩を踏み出すことができました。誠にありがとうございました。
最後に、仲間のひとりが書いた作文をご紹介します。
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『私と皆の1週間』
一番心に残ったこと、作文、語り合い……どれも素敵なことだ。でも、私は話すのはあまり好きではない。真剣な話だと尚更だ。きちんと言葉をまとめて、皆の前で長々と話すのは、どうにも居心地が悪かった。明日こそは、明日こそはと思い、結局、皆が話しているのをメモするだけだ。メモしているのもえらいとは思わない。それくらい、話せる人はどんなにすごいのかと思う。 得意か苦手かではない。ただ、好きではない。話すのが何時間も経っていると、集中力が欠けて皆の話にも意識がいかないときもある。そんななか、どうやって話しているのかわけがわからなくなる。 昔からサマースクールのとき、座ってじっとしているのが嫌いだった。そんなことをやるなら、外に出たい。ずっと思っていた。 7日目の夜、7回目の語り合いの時間がやってきた。一人1分間というワードに、気分が下がる。心に残った場面。どんふうにメモしようかと思い、ふと、普段とは違う書き方をした。自分と仲良しの子のとなりに座るが、その子は話をするのが上手なため、少し不安になった。しかし、どうだろう。たった15文字も書いていないようなメモ程度の字を見ると、スラスラ言葉が出てきた。それまでは1回も1分以上話せなかった私が、ピッタリで終えられるようになったのだ。なぜかその日の語り合いはとても気が楽だった。誰かのことをほめるお題、一番がんばったことのお題…‥最後は1・2班合同で話し合ったが、私はスッと手を挙げられていた。ほかの人のことだからだろうか。誰かをほめることは不思議と最初の気持ちがなくなっていた。 いつのまにか、1週間で、皆と話すことへの「好きじゃない」という気持ちがどこかへいっていた。皆と話をする。そんな気持ちの輪を学校の友達やクラスメイトにも広げていこう、そう思った。
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仲間に話したことがその子のすべてではありません。目には見えない、それぞれの内側にある「挑戦」が、確かにこの7泊8日に詰まっていたのだと、彼女の作文を読んで、胸に染み渡りました。
どうかご家庭でも、お子さまの挑戦にたっぷりと耳を傾けていただけたら幸いです。 あの島に植えたオリーブの木のように、今回の経験がいつまでも心に根を張り続けますように。
またどこかでお会いできる日を、心より楽しみにしております。改めまして、このたびは本当にありがとうございました。
2025年 夏
花まる学習会 カトパン/加藤崇彰
加藤崇彰(かとうたかあき)/カトパン
🌳花まる野外体験公式サイト
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