【花まるリビング⑭】『“ピタリ”と当てはまる声かけ、そのときのその子に響く声かけ』勝谷里美 2022年6月

【花まるリビング⑭】『“ピタリ”と当てはまる声かけ、そのときのその子に響く声かけ』勝谷里美 2022年6月

 苦手なものは?と聞かれたら「車の運転」と答えます。子どもが保育園に入園したタイミングで、十何年ぶりに運転を再開。5年経ったいまでも、慣れない道の運転は緊張します。

 保育園の駐車場を出た先に、信号のない交差路があります。細い道ですが、絶対に通らなくてはいけない場所で、みんな徐行運転で、譲り合いながら車を走らせます。
 あるとき、その交差路の1か所に【通学路・スピード注意!】という旗が立てられました。子どもも多く行き交う場所なので、その旗があることにより車への注意喚起の効果があるのですが…「待って、そこに旗があったら、右から来る車が見えづらい!」と、私は内心では悲鳴をあげました。
 運転が得意な人にとっては、それほど気にならない場所なのです。ただ私は、少しでも視界が広いほうがありがたくて、それを遮る旗が気になって仕方がありません。大多数には効果的でも、「その人」に焦点をあてたときに、“ピタリ”と当てはまるほど効果的ではないことは結構あるなぁ、と考えさせられました。

 「旗」は方法の事例ですが、声かけについても同じで、人によって響く言葉、響かない言葉がありそうです。思い返すと、「そうそう、それが聞きたかった!」というぐらい、私に絶大な効果をもたらした一言がありました。

 車を購入したとき。ペーパードライバーだった私は、運転席に座り(何だ、このボタンの多さは…)と恐れおののいていました。それを感じ取ったのか、スタッフの方が「押しちゃダメなボタンはないですからね。まずはいろいろと試してみてください」と一言。その言葉を聞いて、心から安心して、エンジンをかけられました。

 車の運転が苦手です、と花まるの上司に何気なく話したとき。「ああ、運転は花まるの授業と一緒で、リズムが大事。流れを止めないようにするといいんだよね」とアドバイスをもらい、(なるほど!そういうことだったのか!)と自分の中で、何かがすとんと腑に落ちた感じがありました。

 どちらも本当に何気ない言葉ですが、そのときの私にはとても響きました。前者は「不安にピンポイントで寄り添ってくれたこと」、後者は「誰も教えてくれなかったことを、馴染み深いたとえで説明してくれたこと」が効果的だったのでしょう。そしてどちらも、私が「苦手意識」のあるものに対して、すっと光を差してくれたように感じました。

 書籍『花まる学習会 若い先生のための教えることが楽になる技術』の中で、高濱が「子の目の輝きが消えたら、その指導法はすぐに変える」と語っています。
―ほかの先生がほかの児童生徒にやって成功したことが、うちの子に当てはまるかどうかなど、わからない~(目の前の子の)目が輝いていなければ、柔軟に変更を加えてみる―

 この言葉を聞くと、いつも、自分の子育てにも思いを馳せます。
―ほかの家庭がこうだったからといって、うちの家庭に当てはまるとは限らない。私自身がこうしてほしかったからといって、目の前の子もそう思っているとは限らない―

 そして、私自身に寄り添ってもらった言葉がとても嬉しかった経験にまで思いを広げます。
―私も子どもの目の輝きをよく見て、そのときどきで、個人に、ピタリと当てはまる言葉をかけてあげられる大人でありたい― 特に、その子が苦手だと感じているものほど、誰かの言葉かけひとつで、道が開けていくかもしれません。まずは、子どもの目の輝きをよく見るところから始めたいと思います。

花まる学習会 勝谷里美


🌸著者|勝谷 里美

勝谷里美 花まる学習会の教室長を担当しながら、花まる学習会や公立小学校向けの教材開発や、書籍出版に携わる。現在は、2児の母として子育てに奮闘中。著書に『東大脳ドリルこくご伝える力編』『東大脳ドリルかんじ初級』『東大脳ドリルさんすう初級』(学研プラス)ほか

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