【花まるリビング①】『自分(母)がニコニコできる方を選んでいい』勝谷里美 2021年4月

【花まるリビング①】『自分(母)がニコニコできる方を選んでいい』勝谷里美 2021年4月

 はじめまして、花まる学習会の勝谷里美です。教室長として約10年、子どもたちを見てきましたが、自分の子育ては、「あー、こんなにもままならない…」と思うことの連続です。

 あるとき、心理関係のお仕事をされている方と話していたときに、「本質的には、子どもの行動や発言はシンプルでわかりやすいですよね」という話が出ました。それを聞いたとき、「いやいや…」と、もやっとしたのを覚えています。毎日毎日、保育園から帰って駐車場に着いたとたんに抱っこをせがまれ、玄関まで抱っこしておろすと、「なんでおろすの!もう最悪、台無し!」と泣き叫ぶ6歳の娘。「そんな娘にどう接したらよいのか、私にはまったくわからないです」と。

「お母さんが好きで甘えている」「ようやく家に帰って来られて安心しているのかも」と、”わかりやすい解説“をつけることはできるのですが、
①「もう6歳だし、ここで甘やかしすぎるとよくないかも…」という世間の評価基準に照らし合わせたときの葛藤
②「私もくたくたなのに、ここで親の愛情を試すようなことしないで…」という自分の本音との葛藤
③「愛情不足なら抱っこしてあげたほうがいいのかなぁ」という、罪悪感からくる葛藤
と、さまざまに混じり合い、「もうお手上げ!」となってしまいます。たとえ知識として子どもの気持ちがわかったとしても、「で、親は結局どうしたらいいのか」の部分は、常に判断の連続です。

「帰ってくると大泣き問題」の解決はまだですが、一つだけ、私は最近、『判断に迷ったら、自分(母)がニコニコしていられる方を選べばいい』というカードを持つことで、少し楽になりました。
 高濱が講演会「令和の母親だからできること」のなかで「Self(セルフ)―親である前に個人であることを大切に」という趣旨のことを述べています。「お母さんがニコニコしていることが大切」なのは、私もたくさんのご家庭を見てきて非常に共感していたのですが、「母である自分をニコニコさせる」ということは意識していなかったな、と気がつきました。

 判断に迷ったら、「自分はどうしたらニコニコしていられるかな」という一点にしぼります。6歳だろうと、抱っこして思い切りかわいがってあげた方が自分の心が穏やかでいられるなら抱っこしよう。抱っこできないほどしんどい日は、「ごめんね、今日はもう疲れているから、いまはゆっくり遊べない。寝る前にゆっくりしよう」と正直に話す、など。日によって対応は変わります。「こんなに自分(母)基準でいいのかな?」と迷う部分もありますが、イライラして「もう6歳なんだからそんなに泣かない!」など、誰のためかわからない正論で”ちゃんと“させようと叱るよりは、お互い楽かな、とも思うのです。

 私に余裕があるときは、泣き叫ぶ娘をどう笑わせようかというところに注力する。余裕がないときは、「今日はお母さんも疲れちゃったんだよー、外で頑張ると疲れるよねー」と受容しつつも、夕飯準備などを進める。正解のない子育てに、自分なりの判断基準となるカードを持つだけで、私は楽になりました。娘も少し素直に要望を表現できるようになり、わが家の場合はお互いにとってよかったようです。

 「自分を大切にしている大人」としてふと思い浮かんだのが、絵本『つんつくせんせいシリーズ』(フレーベル館)に出てくる「つんつく先生」でした。つんつく先生は、”つんつく園“の先生なのですが、いわゆる「先生」らしくはなく、いつでも自分の楽しい気持ちに正直です。読んでいて、「え!子どもに接する人として、それでいいの!?」という突っ込みもしばしば。しかし読み終わると、登場人物も、読んでいる親も子どもも、ニコニコ楽しくなってしまうお話ばかりです。ストーリーのおもしろさはもちろん、「自分の思うままに感じる心を大切に生きること、それで、『ニコニコ』が伝播していくことが、幸せなのかもしれないな」とじんわり心があたたかくなる絵本です。

 マニュアル通りにいかない子育て真っ最中ですが、花まる学習会の先生かつ母親、という二つの視点から気づいたことと、子どもとの読み聞かせのなかで出合った素敵な本のご紹介を軸に、一年間連載を担当します。どうぞ、よろしくお願いいたします。

花まる学習会 勝谷里美


著者|勝谷 里美 勝谷里美 花まる学習会の教室長を担当しながら、花まる学習会や公立小学校向けの教材開発や、書籍出版に携わる。現在は、2児の母として子育てに奮闘中。著書に『東大脳ドリルこくご伝える力編』『東大脳ドリルかんじ初級』『東大脳ドリルさんすう初級』(学研プラス)ほか

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