【花まるリビング⑱】『「思い込み」を捨ててみる』勝谷里美 2022年11月

【花まるリビング⑱】『「思い込み」を捨ててみる』勝谷里美 2022年11月

 十年ぐらい前、私より先に母になった友人と久しぶりに会ったのですが、その子がとても早口になっていたことに驚きました。おっとりマイペースだった彼女の話し方が、幼児を目で追いながら、時に実際に追いかけながら、スピーディーに息を継ぐ間もない話し方へと変化していました。そして、自分が母になり、「あっ」と、私も早口になっていることに気づきます。時間に追われているから?子どもに絶え間なく話しかけられているから?自然とそうなるのでしょうか。
 早口になり、思考も早回しになっている感覚のときは、つい「先回りの声かけ」―たとえば「今日はハンカチ忘れてない?」や「●●したほうがいい?あ、でも、××だから、△△だよね」といった結論まで出す声かけ―をしてしまい、(もっと自分で考えさせたいのに)と反省することもしばしばです。
 何より、早口になっていると、子どもとの応酬もヒートアップしてしまいます。特に口が達者な8歳の長女とは、わーっとお互いに言いたいことをぶつけあっての親子喧嘩になる感覚があり(これは、何とかしなくては…)と考え、ふと「あえて、0・75倍速で話そう」と思いつきました。

 「0・75倍速で話す」を意識してよかったこと。
①自身の気持ちを俯瞰しながら話すので、反射で言葉を発することが少なくなり、吟味した声かけができる。特に私は、反射で返すと、「でもね」「たださぁ」といった否定から入る癖があったことに気づけた。
②子どもを待つことができるようになった。信じて待つことが大事とわかっていても、日々の生活に追われると忘れがち。0・75倍速で話すと、自分の心のなかに「待つ」イメージも同時にわく。
 読んでみて「試してみたい!」と思った方は、ぜひ、その結果も教えていただけるととても嬉しいです。

 話は変わって、長女の宿題問題。1日1ページの宿題が定着しなかったのですが、少しだけ光が見えてきました。宿題の冊子を二冊購入して親も一緒に取り組む、という作戦。「弟も妹(赤ちゃん…)も宿題はないのに、どうして私だけ」と不満げだった長女には効果的だったようです。
 と、ここまではよかったのですが、横で宿題をするようになって、今度は「しゃべり続けながら手を動かす」というのが、非常に気になる。案の定、うっかりミスも多い。「集中して」と注意をすると、娘のやる気がどこかに行ってしまう悪循環。親と子の宿題バトルに終わりはあるのでしょうか。

 この二つのエピソードの共通点は、実は「私の思い込み」です。花まるの授業、特に年中、年長、低学年はスピーディーに進みます。それは幼児の特性に合わせているから。ずっと授業をしてきてその効果を十分に感じていたので、自分の子育てもそのテンポでやっていたのですが、「先生ではなく、親としては、早いことにこだわらなくてもいいかも?」と思ってやってみたのが、あえてゆっくりしゃべる方法でした。
 また、宿題をやっているときに娘のおしゃべりが気になるのは、花まるの教室の静寂な空間であさがお、サボテンに向き合う子どもたちを見てきたから。「宿題は静かに取り組ませるべき」と思い込んで娘を注意していましたが、「いまは、この子は(静寂=集中)に一人で入り込める段階じゃないってことで、まぁいっか」と思い込みを捨てると、親としてはぐっと楽になりました。

 花まるの先生として学んだ本質を軸に。ただ、「こうすべきだ」という思い込みは必要ない。目の前の子どもは世界にひとりだけなので、「親として」、相手のことをよく知るために観察して、柔軟にアレンジしていきたいなと思った最近の出来事でした。

花まる学習会 勝谷里美


🌸著者|勝谷 里美

勝谷里美 花まる学習会の教室長を担当しながら、花まる学習会や公立小学校向けの教材開発や、書籍出版に携わる。現在は、3児の母として子育てに奮闘中。著書に『東大脳ドリルこくご伝える力編』『東大脳ドリルかんじ初級』『東大脳ドリルさんすう初級』(学研プラス)ほか

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