子どもたちに、好きなお弁当のおかずランキングをたずねてみたことがあります。そのときのランキングは、「1位からあげ、2位たまごやき、3位うらないグラタン(冷凍食品)」でした。私もお弁当に入っていると、割とテンションがあがるおかずだったなぁと、今も昔も変わらない嬉しさを感じたものです。その中で、子どもたちの物議を醸したのは、2位のたまごやきでした。
たまごやきの味は、家庭によって異なります。甘い味の家庭もあれば、しょっぱい味の家庭、中に具材が入っている家庭など、様々です。しかし、いずれも家族にとっては「これが、たまごやき」の味。なくてはならない存在なのです。
1年生のAちゃんが好きな食べ物は、お母さんが作るたまごやきでした。そんな彼女が、不思議なことを言うのです。
「昨日食べたたまごやきはね、カステラみたいにあまーいの。でもね、今日の朝ごはんのたまごやきは、すーごくしょっぱかったの。先生、なんでだと思う?」
「お母さんが、砂糖と塩を間違えたから?」
「ブッブー!お母さんはいつも甘いたまごやきしか作らないもん。」
「正解はね…昨日はお父さんが仕事に行く前に一緒に遊んでくれたんだよ。今日は、お母さんに、宿題やらなくてすごく怒られたの。」
その説明ではわかりにくかったのでよくよく聞いてみると、つまりは、叱られた後に朝食をとったということで、涙の跡がたまごやきを塩味に変えていたということでした。
たとえ好きな食べ物を口にしていたとしても、そのときの気持ちや状態によって、味は変わることがある。嬉しいときには、際立って美味しいですし、落ち込んでいるときは、好きなものでさえも味がわからなくなるときがあるものです。
「たまごやき」の中には、言えない気持ちもたくさん詰まっているのです。甘いとき、しょっぱいとき、大好きな「たまごやき」を食べていても、また泣いたり喜んだり。まるで人生のようです。ずっと甘い「たまごやき」であってほしいけれど、しょっぱいときもないと、人は成長しません。甘くて、しょっぱくて、それの繰り返しだからこそ、強く、たくましく生きる力をつけられる。だから人生はいいものなのだと私は思います。
子どもたちがこれから歩んでいく人生は、甘くてしょっぱい「たまごやき」。どんな経験もどんな想いも、子どもたちにとってなくてはならないものに必ずなります。無駄なことは一つもありません。だから私は、子どもたち一人ひとりの人生が、これからも輝かしいものであることを願っています。
花まる学習会 田中涼子
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。