「歌って」「しりとりしよう」小学生の長女が、まるで友達かのように話しかけている相手は、スマホのなかに住むSiri(シリ)。新しい機能を見つけたり、おかしな回答を得たりしては、笑いながら報告してきます。その姿は、ほほえましく、頼もしく見えます。AIとともに生きる時代。いよいよその実感が確かなものになってきました。世の中にある情報なら何でも知っている相手と、対話しながら仕事ができる。2022年11月に公開された「チャットGPT」や「AIが作った〇〇」のニュースなど、AIの話題をよく聞くようになりました。子どもたちと自然に対話するお友達のようなAIも間もなく誕生するかもしれません。でももし、そんな聡明なお友達を頼りにする日常のなか、ある日急に返事をしてくれなくなったら…? 何か目的を持って悪い方向に導くような回答をしてきたら…? 近未来へのワクワクした想像と同時に、漠然とした不安、うすら寒いものも感じてしまうのは、私だけでしょうか。
社会全体にも、これからより大きな変化が起こるでしょう。仕事における技術、たとえば「Excelのマクロを組む」「WEB言語を使ってプログラミングする」といった作業も、正しく質問しさえすれば初心者だって簡単にできるようになるそうです。使えるのが当たり前、「できない」のは「やる気がない」と判断されてしまうのかもしれない…。では、いまの子どもたちが成人する頃にはどうなっているのか。予想することも難しい「未知」の未来が、目前に横たわっています。そんな時代の子育てで大事にしたいことは、一体何なのでしょう? 時代に取り残されないために、私たちに何ができるのでしょうか。
考えをめぐらせてみて浮かんできたことは、「子どもに倣う」ことでした。いまという時代を知る最も身近な方法は、未来を生きていく子どもたちが「いま興味を持つもの」を感じることだと思うのです。小学生たちと接していると彼らは時代の最先端だと感じます。お笑いもCMも彼らが話題にしているものは流行るし、彼らの心を射止めるものが時代を代表するものになります。一方で、普遍的なものも確かにあります。ロングセラーの絵本は30年前と変わらずいまの子どもも喜ばせていて、おもちゃ屋を見渡せば「懐かしい」と感じるものがそこここにあります。小学生が好きな動画を見せてもらうと、音や感触など五感を楽しむコンテンツや、日常の小さな幸せを取り上げたものが多くあります。彼らの「好き」に寄り添うと、その時代の最先端とともに、変わらない人間の本質も学ぶことができるような気がします。そして、普遍的なものはあるのですが、形はどんどん変わっていきます。彼らは、その変化を嬉々として楽しみます。先生が変わる、やり方が変わるというとき、一時は惜しみますが、新しいものが楽しかったらすぐになじむのが子どもたち。時代のうねり、社会の変化は止めることができません。どうせなら、子どもたちと肩を並べて同じ時代を楽しんだほうが幸せそうです。
もうひとつ、クラスの子どもたちに思いを馳せて浮かんできたことは、「このままでいい。このままがいい!」ということでした。お鍋のなか、瓶のなかに小さな宇宙を作りだすことに没頭する子もいれば、新しいアイテムにキラリと目を光らせてあれこれ吟味するのを楽しむ子もいる。まわりがどうあろうと「私はこれが好き!」が揺るぎなかったり、それもいい・こっちもおもしろいと自分の楽しみ方を創り出せたり。未知の時代を生きていく力は、目の前の子どもたちのなかにすでにあると感じられてなりません。
先日、4年生の娘が私の動画作成ソフトで動画を作って遊んでいました。最近使いはじめたばかりのソフトで、何度も検索してやっと使い方がわかった私。知らない効果も入った娘の動画のクオリティに驚き、「何となくわかる」という彼女の言葉を呆然と聞きました。2歳の下の子は、教えてもいないのに動画視聴中に通知をスワイプでよけています。それを見るにつけ、「新しい時代の人だ!」と思わずにいられません。
AIの誕生は人間の進化の結果です。人間の進化は、子ども時代の力によるところが大きい。子どもたちを見ているとそう思います。伸びやかな感性が新しいものを受け入れ、柔軟に吸収して新しい能力を手にしていく。その積み重ねが、いまの社会を作ったのではないかと。未来を生きる子どもたちには、それだけの力があるのだと信じて。来る日々をともに楽しみたいものだと思います。
花まる学習会 大塚由香(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。