連絡帳や保護者みなさまとのやりとりのなかで、さまざまな学習面のお悩みをご相談いただきます。子どもが1日1ページの宿題を続けられない、すぐ宿題に取りかかれない、わからないからやりたくないなど、子育てをしていると悩みは尽きません。私たち大人の思う「当たり前のこと」が、子どもたちにとっては「当たり前ではないこと」だと自覚することで、自分の感情や子どもに伝える言葉が変わるかもしれないと、あるお母さんとのやり取りのなかで改めて気づきました。
3学期はHIT(ヒット / Hanamaru Intelligence Test)に向けて、毎回漢字ノートを提出していた2年生Tくん。はじめからこうではありませんでした。1学期はほとんど提出していなかったのですが、2学期から少しずつ提出するようになってきたのです。1学期の頃はお母さんと一緒にいやいや練習をしていたそうです。教室でのTくんは、あさがお(転写教材)や作文などで、書くことにやや抵抗があるように見えました。そこで、まずは漢字ポケット辞典を開き、読むことからはじめました。1か月ほどが過ぎ、お母さんから「相変わらず書くことはいやがりますが、声をかけたら読むようになりました。しばらく様子を見てみます」とご連絡いただきました。
そして2学期になると、漢字練習ノートを提出するように。ノートを見ると、特に順番や形式を気にせず、Tくんがやりたいように書いていました。1行だったものが2行3行と増えていき、3学期にはお母さん自作のクイズ形式の練習問題やひたすら間違えた漢字を書いたりして、毎日1ページほど練習するまでなりました。
3学期の漢字テストでは見事合格したTくん。本人は96点以上の特待合格がとれずに悔しがっていましたが、1学期の頃と比べたら大きな成長です。Tくんのお母さんは次のように話してくださいました。
私が小学生のときは、テスト前に漢字練習をするのは当たり前でした。だから同じようにTもやると思っていたらまったくやらず、注意したり無理やりやらせたりしてもうまくいかずに困っていました。でも先生から漢字ポケット辞典を見たり読んだりするだけでいいと聞き、Tに合ったやり方でやってみようと思ったんです。子どもの頃の私とTの好きな遊びや食べ物が違うように、勉強の取り組みやすい方法も違うことに気づきました。
このことに気づいてから、お母さんは「Tはどうしたい?」が口ぐせになったそうです。お母さんがこうしたい、お母さんが子どもの頃はこうだったからと考えるのではなく、Tくんがどうしたいかを聞くことからはじめ、楽しくできるように一緒に考えるようになったそうです。
誰かと比べるのではなく、わが子にとって楽しい時間にする、そして頑張ったことを言葉にしてほめる。特別難しいことをしているわけではありません。少し時間を作って一緒にやろうと背中を押して、頑張ったね! 明日もやろうね! と伝えていたことも、Tくんのやる気や学習習慣につながっていたはずです。
自分にとっての当たり前がほかの誰かに当てはまるとは限らないということを改めて感じました。教室でも一人ひとりの子どもたちにあった、声かけやサポートをしてまいります。
花まる学習会 日下部龍(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。