花まる学習会が目指しているのは、子どもたちを「メシが食える大人」に育てることです。メシが食える大人とは? その要素はいくつもあり、人によって回答が異なるものだと言えます。「子どもたちに、どんな人になってほしいか?」そう聞かれると、たくさんの答えが浮かびます。その一つとして、私はこう思っています。
「目の前のことに、一生懸命になれる人になってほしい」、もっと言うと、「一生懸命やる先に見える景色を、おもしろさを、存分に味わってほしい。そんな豊かな人生を送ってほしい」。本気になってこそ感じられるおもしろさは、この世のなか、ごまんとあります。また、人は頑張っていることを自然と好きになっていくもの。そして、一生懸命やることの価値を自分で見出した子は、一生食いっぱぐれることはありません。
先日、HIT (ヒット / Hanamaru Intelligence Test) を始める前に、子どもたちに「頑張ること」について話をしました。
「いま、目の前のことを頑張れる子は、違う場面でもきっと頑張れます。もちろん大人になっても、一生懸命になれる人になる。今日のHITで、みんながどれだけ頑張れるかが楽しみです」
子どもたちは、1枚目のサボテン(計算教材)からの出題から、前のめりに取り組んでいました。1年生もふくめ、解き終わってからも頭のなかで解き直しをする姿が印象的でした。
ここで、保護者のみなさまに一つ、ささやかなお願いがございます。来週HITを返却させていただきますが、その際、ぜひ答案をじっくりご覧ください。もしかしたら、「こんな問題もできないのか」「ケアレスミスをまたしている」など、さまざまな感情がわいてくるかもしれません。しかし、それらの感情をいったん横に置いて、わが子の【頑張った跡】を探してみてください。
よく見ると、消しゴムを使いながら粘り強く考えた形跡が見つかるかもしれません。少し前はできなかった問題を今回は解けているかもしれません。間違っていたけれど、自分なりに考えて答えを出すことを諦めなかったかもしれません。いつもより丁寧に力強い字で書いているかもしれません。自分の意思で見直しをし、間違いに気づき書き直した跡が見つかるかもしれません。
子どもたちは1時間半、目の前の問題と向き合っていました。ぜひ、その頑張りの跡を見つけて、感じたことをお子さまに伝えてください。お父さま・お母さまの「考えた跡がしっかり残っている。よく考えたなぁ」などの一言が、「次もまた頑張ろう」という活力になります。
私がなぜそう思うのか。特に小学生時代、 私は母の影響をとても受けていました。母から「あんたって、おもしろいね」と言われたことで友達を笑わせることが好きになり、そのおかげで学校の思い出は楽しかったことばかりです。また、「計算、速いね」という言葉から、算数がどんどん好きになりました。その一方で、「国語は苦手ね。だから、もっと本を読みなさい!」と言われていました。母なりに私のことを考えて言ってくれたのだと思いますが、逆効果でした。「僕は国語ができない」と思い込み、本を読むのが苦痛になっていったのです。文章を書くのにも抵抗が生まれ、その苦手意識は、大学生になるまで尾を引きました。大学時代、 奇しくも母が私の書いたイベントの告知文を目にした瞬間があったのです。「あんた、文章をこんなに上手に書けるの?」母は驚いて言いました。この言葉を聞いてから、私は文章を書くのが一気に好きになったのです。友達や先輩から「いい文章を書くね」といくら言われても自信がないままだったのに、母の一言でいとも簡単に覆されました。それほどまでに、親の影響は大きいもの、そう実感しました。
子どもたちには「一生懸命になれる人になってほしい」と書きましたが、子どもたちは、もうすでにそうなれています。これから先も、さまざまなことに一生懸命取り組み、その先にあるおもしろさや、頑張ったぶんだけ返ってくるという手応えを、存分に味わってほしい。心から思っています。
花まる学習会 臼杵允彦(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。