【花まるコラム】『タイミング』濱本和美

【花まるコラム】『タイミング』濱本和美

 この夏、サマースクールに参加してきました。多くの子どもたちとかかわり、私自身学びがいっぱいの日々でした。そして、子どもたちのさまざまな葛藤を見る機会となりました。

 1泊のコースに参加した1年生Gくん。このサマースクールが初めてのお泊まりでした。日中の活動は楽しく過ごしていましたが、夜になりホームシックに。これからお風呂に入るぞ、という時間に不安が爆発し、「ママに会いたい!」と部屋で泣き叫んでいました。いまはお風呂に入ってほしい、そう思いつつ「お風呂に入って寝たら明日にはもうおうちに帰れるよ」と伝えましたが、なかなか涙は止まりません。帰るためにはバスが必要、けれど今日はもうバスがないことを伝えました。泣いているGくんにとって、いまはどうしたって帰ることができないという事実は、とても残酷なことだったでしょう。お風呂に入るか、それとも泣いて疲れていたので今日は寝て明日の朝にお風呂に入るか、Gくんに決めてもらうことに。「一緒に考える? それとも一人で考える?」と問うと、「一人で考える」と言ったのです。5分後に部屋へ戻ると、部屋の奥にいたGくんがほんの少しだけ入口に近づいていました。また5分後、今度は入口から見える場所まで移動。寂しくて押しつぶされそうになりながらもGくんは少しずつ覚悟を決めていました。そして最後にはお風呂に入り、みんなとパジャマ写真も撮ることができました。

 別の日程で、わくわくアドベンチャーという、100人鬼ごっこ、川遊び、秘密基地作りなどいろいろなことを経験するコースに参加していたときのこと。秘密基地作り当日、直前に降った雨の影響で地面がぬかるんでいました。運動靴が汚れてしまうため、川遊び用の靴を履くことに。しかし、その靴は前日に川遊びで使用していたため濡れていました。2年生のAくんは「濡れているから履きたくない!」と言います。なんとか森には連れて行ったものの、靴を見つめながら黙り込むAくん。「履いていたら気にならなくなるよ」「みんな基地を作りはじめているから一緒に作ろう!」と前向きな言葉をかけても、Aくんは目に涙をためて頑なに動こうとはしませんでした。どうにか参加してもらいたい! その一心で話しかけますが、Aくんは口をつぐんだまま1時間が経とうとしていました。
 秘密基地を作ることができる時間も残りわずか。だんだん私も焦りが出はじめ、語気が強くなっていくのを感じました。そこへ同じチームの子たちが水分補給のためにやって来ました。
 『Aどうしたの?』「濡れている靴を履くのがいやなんだって…」『あー! わかる!』『でもだんだん気にならなくなってきたよー』チームの子たちは、共感しつつ、楽しそうに声をかけていきます。
 『Aが来てくれたら一人増えてすごい秘密基地ができるからおいでよ!』
 基地作りをさせようという気持ちではなく、心からAくんと一緒に作りたい! という思いから出た言葉でした。秘密基地に戻っていったチームの子たちを見送ったあと、Aくんに基地作りで使うロープを渡し「これを持っていってみんなでかっこいい基地を作ろう!」と伝えたときには、Aくんは靴を履いていました。そして、自らチームの元へ。さらに、落ちていた枝を持っていったのです。その枝を見たチームの子が「ナイス!」と声をかけ、枝は基地の一部になり、そして全員で秘密基地を完成させました。
 最後にみんなで撮った写真にはAくんの笑顔が収められました。

 葛藤しながらも、折り合いをつけて一歩踏み出したGくんとAくん。野外体験では、一歩踏み出すタイミングを待ち、背中を押すことができます。それこそ、私たち花まる学習会の役目だと思っています。タイミングを見逃さず背中を押し続ける存在でありたいと思いながら、今日も子どもたちと接しています。

花まる学習会 濱本和美(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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