授業後に教室を掃除していると、床に大量に落ちていたり、机の片隅に山盛りになっていたりする消しゴムのカスを見つけます。それを見ていると、ふとある男の子のことを思い出すのです。
「ほら見てよ!」
と言いながら、自分の机を指さす3年生Aくん。彼の机の上は消しゴムのカスだらけになっていました。Aくんは授業が終わるまでの15分間、ずっと問題に挑戦していたのです。
Aくんが解いていたのは、低学年クラスで扱うプリント「レインボータイム」。その日に取り組む問題をすべて終えた子だけが挑戦できる、ハイレベルな思考力問題です。最終問題は大人でも考え込むほどの難問。子どもたちはいつも、全問解きたい一心で鉛筆を動かし考えています。
Aくんは答えを書いては消し、書いては消しを繰り返し、見事全問正解!
「ほら見てよ! こんなに消しゴムで消しながらたくさん考えたんだから!」
とちょっといばるように、すべての問題を解き終え、達成感に満ちた表情で言ってきました。
そんなAくんのことを年長の頃から見てきました。年長用のテキストを解けば、すべて花まる。しかし、わからない問題があると、「なんでわからないんだ…」と声を震わせ悔し涙を流していました。「ヒントいる?」とこちらから聞くと、首を横に振ります。自分がわからないはずがない! だからできる! と自信をもっていたので、解けないと悔しく、悲しい気持ちになっていたのです。
ご家庭でもわからないと大きな声で泣いて、お母さんを困らせていたとうかがいました。お母さんは始まった…と思いながらも、隣で慰めたり、お父さんやお兄ちゃんを呼んで一緒に問題を解いてもらったり、たまに「いい加減にしなさい!」と怒ったり…。時間の許す限りはAくんの気が済むまで付き合っていたそうです。
現在3年生になったAくん。2回ほど涙を見せることはありましたが、誰にも気づかれないように下を向いて目をぱちぱちさせていました。泣いている姿を見せることがと思うようになったのでしょう。でも悔しくて涙は出てきてしまうから、それを見せないようにと繕っていました。泣いている姿一つとっても、成長しているのだなと感じられた瞬間でした。
たくさんの問題を解いてきて、答えがわからないときもあるとだんだん思えるようになってきたAくんです。1年生のときは、レベルが高い問題だとわかっていても泣いていましたが、レインボータイムを解いていたあの日は自ら
「ねえ、ここさ、わからないからヒントちょうだい!」
と聞いてきたのです。誰かに頼ることを覚えたAくん。一人で解こうとしなくても、解法の糸口を知り、考え方を学んでいけばいい。彼の視界が開けたと感じました。そして、机を見て「消しゴムのカスだらけ…こんなにも消しゴムを使って考えていたのか!」と頑張りも自覚するようになりました。
授業後の教室に残る消しゴムのカスを見るたびに「みんな今日もたくさん考えたんだな」と感じています。その頑張りが積もり、子どもたちの糧となる。花まるがそんな場所であり続けられるように、子どもたち一人ひとりと接してまいります。
花まる学習会 松浦加奈(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。