【花まるコラム】『ぽっかぽか』高橋大輔

【花まるコラム】『ぽっかぽか』高橋大輔

 オンライン教室長時代に出会った1年生のSちゃん。出会った4月当初は、画面の端にちょこんと映り、発言は控えめ。学校では自分から話しかけることができず、なかなか友達と距離を縮められない。さまざまな場面で、一歩踏み出したい、けど踏み出せないという壁にぶつかっていました。そんなSちゃんのターニングポイントは、8月末からスタートした「作文」です。

「なまえ」
わたしのなまえは〇〇です。

 Sちゃんが花まるで初めて書いた作文は、1行。尊い作品を受け取ったなぁと思い、画面越しにこんな言葉を届けました。「名前はお母さんお父さんから贈られた人生最初のプレゼント。この1行を読んで心が温かくなったよ」。そこから回を重ねるごとにSちゃんの作文からたくさんの「声」が聞こえてくるようになりました。ひとつ、作文を紹介します。

「のびーる」
 わたしは、すごくせがたかいです。うれしくてたまりません。すごくのびーる。おとなになったら、ほそくなれるかな。じぶんだいすき。

 作文を通して想いを率直に届けてくれるのです。枚数と比例するように少しずつ笑顔が増え、授業への臨み方に変化が出てきました。まず、映る位置が画面の端から中央へと変わりました。さらに、発言の機会が増え、リアクションをとる回数も増えました。仲間とのコミュニケーションの密度が濃くなっていったのです。最後まで画面上に残り、作文で書いたこと、書きたかったけど書かなかったこと、これから書きたいことなどを嬉しそうに話してくれる日もありました。このままSちゃんの成長を見守っていきたかったのですが、2月に教室長交代が決まり、教室を離れることに…。そのことを伝えたときの、いまにも泣き出しそうなSちゃんの表情を鮮明に覚えています。そして迎えた最終授業日、Sちゃんはさまざまな感情を乗り越えながら、便せん3枚にわたる手紙を読み上げてくれました。1行の作文、3枚の便せん、Sちゃんには心を温かくしてもらってばかりです。

 そんな別れを経て2年。予想していなかったサプライズが! なんと、3年生になったSちゃんとサマースクールで再会できたのです。しかも同じ宿! 対面で会えた…! 二重三重の喜びに包まれました。

 Sちゃんの成長は一目瞭然でした。仲間の名前を呼ぶ、話しかける、よく笑う…Sちゃんを中心に自然と輪ができあがります。人をつなぎ、みんなの笑顔を引き出す存在になっていたのです。それだけではありません。ホームシックで泣いてしまう子に寄り添ったり、1年生の子が置いていかれないように手をつないだり、ほかの子に寄り添える優しさも備えていました。こんなにも人を想える子になったんだなぁと、胸が熱くなりました。

 私には「ダイブ」というリーダーネームがあります。野外体験期間中はリーダーネームで呼ばれるのですが、Sちゃんは一貫して「大輔せんせい~~~!」と呼び続けていました。これほどまでに「大輔せんせい」と呼ばれたサマースクールは、花まる人生初です。コース終了後、お母さんと連絡をとりました。許可を得たうえで一部を紹介します。

 「みんなは『ダイブ』だったけれど私は『大輔せんせい』ってずっと呼んでいたんだ!」と、Sの心のなかのぽっかぽかが伝わってきました。キラキラした目で、とっても嬉しそうでした。
 小学1年生で先生から教わった多くのことが本当に深くSの心に刻まれているんですよ。いまでもよく、「あっSのいまの言い方は、大輔先生っぽいな」って思うことがあるくらいです。
 Sからも「ずっとみんなを笑わせていた!」と聞きました。親戚や家族といてもそんなSはあまり出ないので、それは新しい自分の大発見だったね! と2人で驚いて喜んでいました。

 「心のなかのぽっかぽか」という言葉に、私の心がぽっかぽかになりました。こうしたまっすぐな贈り物を受け取りながら、私たちは花まるの先生にしてもらっているのだと心から思います。野外体験も、毎週の教室も、子どもたちを想う場所であることは変わりありません。これからも子どもたちの心を「ぽっかぽか」にできるような授業を、教室長、講師、みんなで届けてまいります。

花まる学習会 高橋大輔(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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