【花まるコラム】『2人のSくん』田畑敦子

【花まるコラム】『2人のSくん』田畑敦子

 小学生クラスで、算数大会を行いました。大会では、いつもは同じ学年の友達としか話さない子が下級生の手伝いをする姿や、自分の意見が通らなかったときにぐっと我慢して折り合いをつける姿など、通常の授業とはまた違った子どもたちの様子を見ることができます。

 意見を言えないわけではないですが、優しい性格ゆえに人のことを尊重し、我慢することの多い4年生のSくん。そして、常に全力投球、不思議な魅力でまわりを巻き込んでいく6年生Sくん。この2人が同じチームになりました。

 ゲームは全部で5つありましたが、2人のチームは、なかなかポイントをかせぐことができませんでした。しかし、徐々にチームがまとまり始め、もうひとつのチームに追いつきそうな勢いを見せていました。そして迎えた最終対決は、低学年クラスで使用しているキューブキューブという教具を使ったゲームでした。
 簡単に内容を説明すると、真上から見た図と、前から見たら何階建て、という2つのヒントをもとにキューブキューブで形を作っていく、というゲームです。低学年クラスの大会では、キューブキューブのピースが2つ指定されていましたが、高学年は少しレベルを上げています。ピースの指定はなく、どれを使えばいいか、というところから考えなければなりません。

 4年生Sくんは、低学年のときにキューブキューブを触っていたため、それぞれのピースの特徴を覚えています。6年生Sくんは高学年からの入会のため、あまりキューブキューブに触れたことがありませんでした。そこをどう乗り越えるのかを、私は見守っていました。
 リレー形式のため、一人ひとり順番に形を作り上げていき、6年生Sくんの番になりました。問題とキューブキューブの形を見比べて、さまざまな組み合わせを試しています。そんなときに4年生Sくんが「これはBとCでできる」とつぶやいたのです。6年生Sくんは、アドバイスを素直に受け入れ、「本当!?え、どうするの?」とBとCのピースを手に取りました。
 ここからが、このゲームのおもしろいところです。まわりで見ている人は、どうすれば形が完成するのかわかったら、一切手を出さずに、ことばだけでキューブキューブを触っている人にヒントを伝えなければなりません。相手に伝わるようにするためには、どういったことばを選べばよいのか、という語彙力と想像力が試される部分でもあります。

 4年生Sくんは、「Bを置いて…ちがう、そうじゃなくて、立てて置いて…」など6年生Sくんの動きを見ながら、ことばを選んでいました。6年生Sくんも、その想いに応えようと「こう?え、ちがう?」と一生懸命です。普段は学年ごとのテーブルに座っており、会話をすることのない2人ですが、まるで昔からの友達のように「こう?」「ちがう、そうじゃない」「じゃあ、こう?」「そうそうそう!」と進めていました。
 4年生Sくんがここまで大きい声で自分の意見を相手に伝える姿を見たのは、本当に久しぶりでした。「ちがうってば~!!」「何でだよ~!」と最後のほうはコントのような2人の掛け合いを見て、まわりの子も講師も大笑い。大盛り上がりとなりました。4年生Sくんが上級生にヒントを出したことで彼の大きな成長を感じましたが、それを引き出したのは6年生Sくんのかざらない素直な態度です。

 私たち大人が働きかけをしていくことはもちろん必要です。しかし、子どもたち同士のかかわり合いのなかでの成長は、大人が働きかけをしていくこととはまた少し違ったものになります。大会では講師からヒントを出すことはありません。子どもたち同士で考え、答えを出さなければならないのです。学年問わず子どもたちが交流し、楽しみながら学び続けられる場をこれからも授業のなかでつくっていきたいと思います。

花まる学習会 田畑敦子(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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