言葉の力は偉大です。人を幸せな気持ちにもするし、悲しい気持ちにもします。それぞれの人の性格や好みや生き方も、言葉に表れると感じています。
新型コロナウイルスが世界中に拡大しはじめた2020年から、私は個人的に、世の中に対し言葉によってあるささやかな抵抗をしていました。それは、「コロナ禍」という言葉を使わない、ということです。歯がゆさや悲しさを感じる現実はたくさんあります。しかし、「それならいま、なにができるだろうか」「逆にいまだからできることはなにかないだろうか」という思考に自分の頭をなんとか持っていき、模索するようにしていました。正直なところを言えば、私はそこまで強い人間ではないため、「禍」と言ってしまうと、「禍だからできなくてもしょうがないか」という気持ちになりかねない、という裏事情もあったりします。
ともかくも、私がそう思うようになったのは、花まるやアルゴ教室で毎週顔を合わせる子どもたちのおかげでもあります。
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感染拡大により、花まるの授業がオンラインになった時期。2コマ漫画のオチを考える低学年クラスの教材「たこマン」は、少人数のルームに分けて、それぞれのルームで発表する形式でおこないました。私のルームでは全員の発表後、時間があったので、子どもたちにこの形式はどうだったか聞いてみると、「みんな発表できたのがよかった」「(ほかの子のアイデアを)聞いていると2個目、3個目も思いついた」「違うチームのおもしろかった答えも聞いてみたい」と感想が。「対面の形式のほうがよかったのに」といった言葉はなく、いまの状況をしっかりと捉え、さらに楽しもうとする言葉ばかりでした。子どもたちのいまを全力で突き進む姿を、いまだ鮮明に覚えています。
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アルゴクラブ2年生プリント教材の「詰めアルゴ」の問題を解く時間でのこと。その日の問題はかなりの難問で、子どもたちは頭をひねって考えていました。2年生のEくん。得意な問題に対しては抜群の集中力を発揮しますが、骨のある問題に対しては諦めモードになりすく、その日の問題でも「え~! ムリ~!」と早々に言い出しました。私が彼のもとへ行き「じゃあ白の1はどこに入る?」と聞くと、「えっと…あ、ここだ」と指をさすEくん。「そう。Eは考えればこうやってわかるから、「ムリ」って言って諦めモードになると、せっかくわかる場所が見えなくなっちゃうかもしれないよ」と伝え、私と彼の間で、たとえ難しくても「ムリ」は言わないと約束しました。
その翌週の、詰めアルゴを解く時間。その日の問題も難易度は高く、Eくんも「うーん」と考え込んでいました。そして、「うーん…ム」と出かけたときに、彼はハッと自分で気づき、「ム…リではない!」と言って私のほうをチラリ。彼のとっさの急ハンドルに思わず笑ってしまいましたが、よく自分で気づけた、とグッドサインを送りました。時間はかかりましたが、Eくんはその日の問題を解ききり、子どもたちが解説する時間には手を挙げて発表をしました。「ム…リではない!」と言ったその場面は、言葉を通して彼の気づきと意思が存分に表れていた瞬間でした。
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毎週の授業で子どもたちから受け取る何気ない言葉には、いつも幸せなパワーが宿っています。
「こんにちは!」「これ、得意なやつだ!」「荷物が重いよ~」「できた!」「ヒントをください!」「今日の特別授業、楽しみ!」「合っている? これ、合っている?」「わからない~けどわかりたい!」…
毎週、そんな子どもたちの言葉一つひとつに、私は幸せをもらっています。言葉の力を信じ、私の言葉でも、教室に来た子どもたちに、保護者のみなさまに、少しでも幸せを与えることができるよう、力を尽くしてまいります。
花まる学習会 山田悠人(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。