【花まるコラム】『天を仰いだ3人』秦野達也

【花まるコラム】『天を仰いだ3人』秦野達也

 「がんばれ…負けるな!」
 5年生のAくんが両手をぎゅっと握りしめながら熱い視線を送る先には、同じ教室に通う仲間である6年生Mくんの姿がありました。息を呑むような緊張感のなかで繰り広げられている花まるアルゴカップの決勝戦。静寂のなかで聞こえるのは、アタック(相手の1枚のカードを指して、その数字を当てること)の声。さらにはカードとテーブルがあたる乾いた音と、まるで自分が勝負に参加しているかのごとく頭をひねっている観戦者が発する「うーん」という低い声。そこには張りつめた空気が漂っていました。
 Mくんがアタックするターン。ここを当てきれば勝利を手にすることができる! と、これまでに得た要素をヒントにして2分の1の確率を当てにいきます。「ふぅ…」と一息ついたあとで決断したMくんのアタックには、無情にも「ノー」というコールが返ってきました。その瞬間天を仰いだMくんと同じように…いや、それ以上に悔しさをあらわにしていたのは観戦していたAくんでした。

 花まる学習会のアルゴクラブでは、塾内公式戦の「花まるアルゴカップ」を定期的に開催しています。1年ぶりの開催となった今年の夏。総勢234名の子どもたちが参加しました。一人ひとりがそれぞれに目標を持ち、他校舎の子どもたちと戦える瞬間を楽しんでいた様子でした。開催後のアンケートからも子どもたちのさまざまな想いが伝わってきました。

 「緊張したけれどワクワクした。知らないお友達とアルゴするのが楽しかった。次は絶対メダルをとる!!」(2年生男子)
 「2連覇を目指していたけれど負けてしまった。でも、とても楽しかった。強い子とアルゴをするのは本当に楽しい。もっと強くなりたい、もっとアルゴをしたいと思った」(6年生女子)

 アルゴクラブの授業を通じて「本気で取り組む」ことの楽しさを感じてほしい、と思っています。「本気」だからこそ感じる悔しさ。もう一度がんばろう! と一歩踏み出す勇気。子どもたちが成長するために欠かせない貴重な経験をたくさん積んでいく様子が、毎週の授業で随所に見られます。
 3年生のTくんはアルゴゲームで思うようにカードを当てることができず、目に涙を浮かべていました。「だって…まだ考えたかったのにみんなが急いでアタックしてって言うから…」1回のアタックにかけることができる20秒という制限時間。そのなかで考え抜き当てることができるか、という緊張感。もっと時間が欲しい! という気持ちもわかりますが、ルールのなかで正々堂々と勝負することは非常に大切なことです。「本気で勝ちたい! と思っているからこその悔しさだよね。もっと考えたい! と思っているTの気持ちはわかるよ。でも20秒でアタックするっていうルールのなかでどこまで考えられるかも大切。時間いっぱい考え続けていることが成長につながるから大丈夫。一生懸命に考えていることが素晴らしいことだよ。気持ちが落ち着くまで休んでもいいけれど、どうする?」と私が声をかけると、力強く涙を拭うTくん。「もう1回がんばる!」と気持ちを切り替えた目には、やってやるぞ! というエネルギーを感じました。
 相手がいるからこそできる真剣勝負。切磋琢磨するからこそ強くなれる関係性。それが叶う環境や時間がアルゴクラブの授業には詰まっています。まわりの子と一緒に考えたり、意見を共有したり。一人では投げ出してしまいそうなときも、まわりの子が頑張っているからもうひと踏ん張りできる。同年代の仲間がいるからこそ受けられる刺激がたくさんあります。試行錯誤したり、根気強く詰めて考えたり。自分が持っている力を精いっぱいに出し切る経験が子どもたちの成長をあと押しします。

 AくんとMくん。普段はふざけあいながらアルゴクラブの授業を楽しんでいます。どこか幼さも感じさせるかわいらしさがある二人。そんな様子を知っているからこそ、Mくんのアタックが外れた瞬間、何よりも心動かされ、自分ごとのように悔しく、心のなかで天を仰いだ私でした。

花まる学習会 秦野達也(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事