【花まるコラム】『読書で広がる子どもの世界』紙田笑夢

【花まるコラム】『読書で広がる子どもの世界』紙田笑夢

 教室では、家庭で読んだ本のページ数を記録・報告する「読書ラリー」 というチャレンジをしています。読んだページの総数が400ページや1000ページと増えていくと、教室の大きな読書ラリー表に自分の名前の書いたシールを貼ることができます。楽しみながら、読書の習慣を身につける取り組みです。実際に、子どもたちは積極的に読書に取り組んでいます。授業前には、教室のドアの前で立ちながら本を読んでいる子がいるほどです。また、あいさつよりも先に勢いよく「たくさん本を読んだの!」「新しい本を買ったよ!」と教えてくれる子もいます。読書ラリーがきっかけで、新しい本を買いに本屋へ行ったという子もいました。

 昨年度、読書ラリーを進めるなかで、3年生Kちゃんのお母さんから相談を受けました。Kちゃんはその頃、生き物や科学に興味がありました。高校生のお兄ちゃんも生物や科学に興味があり、 Kちゃんはお兄ちゃんの影響を受けていたようです。読書ラリーにも、生き物図鑑や『○○のひみつ』(学研の漫画シリーズ)などのタイトルが記録されていました。 Kちゃんのお母さんは「うちの子、理系の本ばかり読んで物語をまったく読まなくて…たくさん本をおすすめしても、どれも読んでくれないんです。物語を読んで、人の気持ちがわかる子になってほしいのに…」と悩まれていました。 Kちゃんのお母さんは、図書館や小学校で読み聞かせのボランティアをするほど本が好きな方。だからこそ、娘であるKちゃんにたくさんの素敵な物語を知ってほしい、という思いがありました。そこで、私はお母さんに「本屋さんでここからここの範囲で好きな本を1冊買う、というルールで、新しいジャンルの本にKちゃんが出合う機会を作りましょう」と提案しました。早速お母さんは週末に、Kちゃんと近所の大きな本屋に行ったそうです。Kちゃんがどんな本を選ぶのかなぁ…とわくわくしていると、レジの前に持ってきたのは……科学者の伝記でした。「本当にKは科学に興味があるのね」と、Kちゃんの好きなものへの一直線な気持ちにお母さんもびっくり!そこまで好きなら…と、この出来事をきっかけに、お母さんはKちゃんに「図鑑じゃなくて物語を読みなさい!」「この本が良いからちょっと読んでみたら」と言うのをやめ、Kちゃんの意欲を尊重するようになりました。また、Kちゃんの興味がありそうな本を見つけると「こういう本も好きそうじゃない?」とさらにアンテナを広げるように。それからは、週に100ページほどのペースで本を読んでいたKちゃんの読書量がぐっと増え、1週間で300ページほど読むようになり、3月末には合計2万ページを超えました。「Kは本を読むのが楽しいみたいで、本を持ったまま寝落ちしちゃうんですよ…」と少し呆れ気味なお母さん。Kちゃんは、お母さんに自分の好きなものを尊重してもらうことができ、さらにKちゃんの興味を深めたり、広げたりしようと一緒に楽しんでくれることが嬉しかったのだと思います。 

 子どもが自分で感じ考えて選ぶものは、案外多くありません。生活環境(住む場所・食事・生活リズムなど)もすべて保護者の方が整えてくださっていたり、学校のクラブ活動や係決めも、限られた選択肢のなかかから選んだりしています。
 一方で、本屋や図書館は、多種多様な本に溢れています。そのなかで「これ、なんだかおもしろそう」「気になるなぁ」と思ったものこそ、子どもの心のアンテナに、ビビッとひっかっかったもの。図鑑や漫画、大人向けの専門書でも、子どもが選んだものは、何かしら惹かれる要素があったはず。その選んだ本こそ、子どもの内面が表れているのではないでしょうか。子ども自身が選んだ本に触れることで、保護者のみなさまも、お子さまの「これが気になる」「好きかも!」の感覚を、一緒に楽しんでいただけたらと思います。親が興味をもつことで、子どもの「好き!」の気持ちはますます大きくなり、さらに深めたくなっていきます。ぜひ、わが子がどんなことに興味をもっているのか、わくわく見守ってみてください。

花まる学習会 紙田笑夢(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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