先日、中学2年生になる息子と話しているなかで、ふと彼が「あ、そういえば、『ギヴァー』読んだよ!」と言ってきました。一瞬何のことだかわからず、ぽかんとしたあと、あわてて「ああ!『ギヴァー』ね!」と返しました。
それは彼が小学6年生の冬ごろ、つまり2年半前に私がプレゼントした本でした。
こちらはあげたことも忘れていて、2年半越しか、と笑いそうになってしまったのですが、でもそういうものだよな、としみじみ思いました。「読んだよ!」とわざわざ言いたくなるということは、それが心からおもしろかったからで、私の大好きな小説と彼がそういう出合い方をしてくれたことを嬉しく思いました。あげた当時は3~4ページ、ぱらぱらっとめくって閉じてしまい、それきりだったのです。
思い出したのは、一人の卒業生のことです。
昨年、就職が決まったことを報告しに来てくれた際、彼女は「先生からもらった言葉を、いまも机の引き出しに入れているんです」と教えてくれました。驚いた、というよりは記憶になくて、メッセージなんて書いて渡したっけ、と聞いてみると、中学3年生で参加した勉強合宿のときに、「合宿のしおり」に書いて渡したコメントを切りとって、取ってあるのだそうです。
悩みごとや悔しさを普段からたくさん話してくれる生徒で、しかし人に話してすっきりするばかりで自分の行動を変えられない。そんな彼女に、伝えるかどうかをギリギリまで迷った末に渡したコメントだったことを思い出しました。
「あのとき、ああ、そのとおりだなと思って…いまもときどき取り出して、確かめるんです」
教師としても、親としても、子どもたちに手に取ってほしいもの、伝わってほしいと願うことはたくさんあります。何を渡すか、どう伝えるか。どれだけ一生懸命考えても、そして渡したときに本人が「わかったよ」「ありがとう」と言ってくれても、結局のところ、それを本当に受け取るかどうかは本人次第です。思い返せば自分だってそうでした。聞き流したことも、うやむやにしたこともたくさんありました。
渡しても手に取ってくれない。伝わっているのかいないのか、さっぱりわからない。
意味があるのかなと思ってしまうけれど、ずいぶん遠くに向かってたくさんボールを投げているのだ、というイメージをあるときからもつようになりました。彼らは独立した一人の人間ですから、投げても拾われないボールはたくさんある。拾いなさい、と手に取らせたボールは、ほとんどすぐに捨てられてしまう。でも、彼らが自分で拾って、自分の大切なものにしてくれるボールも、確かにあるのです。
事実をもとに確信をもってそう言い切ることもまた、私たちの大切な仕事なのかな、と思います。
月に一度、花まるの年中コースの子どもたちが外遊びに出かける日があります。FC教室の近くで学ぶ花まるの年中の子どもたちは、FCの前を通るときにいつも「お一い!こーんにちは一!」と外から手を振ってくれて、私たちはその声を心待ちにしているのですが(笑)、先日、いつものように彼らとあいさつを交わした数分後、空もようがガラッと変わって、強い雨が降り出しました。とっさに校舎の置き傘をかき集めて「持っていきます!」と外に飛び出していった若いスタッフたちの背中を見ながら、遠くで手を振っている子どもたちのなかに何かいいものが残ればいいな、と感じていました。遠くに向かって、いいボールを投げたい。皆でいつもそう願っていられる校舎でありたいと思っています。
スクールFC 仁木耕平(2021年)
*・*・*花まるコラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだより・FCだよりとともに、会員のみなさまにお渡ししています。
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受験に合格することが、人生のゴールではありません。 考えなければならないのは、進学先で幸せになり、「自立した魅力的な大人」になること。スクールFCでは、受験カリキュラムに取り組みながら、 将来に渡って大切な、一生ものの財産を伝えます。