【花まるコラム】『夢の続き』北澤優太

【花まるコラム】『夢の続き』北澤優太

 1年ぶりに、ゆめちゃんに電話をかけました。彼女は、私が小学3年生まで担当した教え子。去年のサマースクールでは、高校生リーダーとして、私が責任者だったコースに参加しました。リーダーとなった教え子と行くサマースクール。それは、夢のようなひとときでした。
「もしもしゆめ? 今年もサマーに行こうよ! 去年楽しかったし、学びもたくさんあったでしょ?」
少し考える時間を置いて、彼女は「今年も行きたいです!」と答えました。そしてなんと…。今年も、私と同じコースに配属されました。「いつかまた一緒に」が早くも現実に。夢はまだまだ続きます。

 今年は、同じコースにゆめちゃんともう一人高校生リーダーがいました。彼女の名前はりかちゃん。要領よく、テキパキ動けるタイプでした。ゆめちゃんはどちらかというと、ゆったりおっとりタイプ。初日のゆめちゃんからは明らかな気負いを感じました。案の定、夜に話を聞くと、「私ももっと頑張らなきゃ。2回目なんだから、もっとできるはず!」という言葉が。どんな励ましもアドバイスも効果はなし。「明日頑張ります」作り笑いとともに部屋へ戻る彼女を、ただ見送るしかありませんでした。

* * *

 サマースクールを終えた、数週間後。再びゆめちゃんに電話をしました。ひとしきりの思い出話を終えると、ゆめちゃんは「そういえば先生には話していなかったけれど、サマースクールに行く前にかなちゃんに会ったんです」と話してきました。かなちゃんは、ゆめちゃんの親友。花まるに来るときも帰るときも、卒業して数年ぶりに会いに来るときも、二人は一緒でした。実はゆめちゃんにとって、かなちゃんはずっと憧れの存在だったそうです。
「かなちゃん、何でもできて本当にいい子だからすごいなぁって思う。私いつも『逆向きの電車に乗りそう』って言われるの。そんなことないんだけどなぁ」
憧れと言いつつ、コンプレックスを抱いているのかもしれないと感じました。そして、ゆめちゃんと私は似ているとも思いました。私も要領の悪さがずっと悩みで、何でもできる子のことを羨ましいと思っていました。だからこそ、切なそうな声で話すゆめちゃんを自分自身と重ね合わせ、胸がキューっと締め付けられました。
「かなちゃんに『サマースクール、めっちゃ不安だよー』って言ったら、『ゆめちゃんなら大丈夫だよ』って返ってきた。かなちゃんが言うなら大丈夫かもなって。そう思って一歩踏み出せたの。でも行ってみたら、全然上手くいかなくて……。りかちゃんはすごく仕事ができるからどんどん進んでいくのに、私はどんくさいから失敗ばっかり。1日目の夜に先生が励ましてくれたけれど、それでも信じられなくって…。布団に入って『もう無理かも』って思ったの。ごめんなさい。でも朝起きて、子どもたちが笑って、おはようと言ってくれたから、『ここで負けちゃダメだ。この子たちのためにもっと頑張ろう』って思って続けられた。子どもたちに元気をもらったんだ」

 私からは、参加した子から届いた一通のアンケートを読んで聞かせました。

先生っていうより、お姉さんみたいで、かわいくて優しくて毎日楽しかった! ママみたいに、目の前にあるファイルを「あれ? あれ?」って探していて、おっちょこちょいなところもあったよ。でも、私たちのために一生懸命やってくれるのがわかって嬉しかった。

娘の言葉です。高校生リーダーのゆめさん、ありがとうございました。

「先生、私、これでいいのかな」
ゆめちゃんのすすり泣きが聞こえました。
「ゆめは気づいていないと思うけれど、そのまっすぐさはあなたの魅力だよ。今回一緒に行って、さらによくわかった。上手くいかないことがあるから、人の気持ちに寄り添えるんだよ。要領が良くなくたって、どんくさくたって、大丈夫。ゆめはゆめらしくいればいいよ」
私も、気づいたら泣いていました。

 あなたは私の夢そのもの。

 あなたがあなたらしくいてくれるから、私は今日もこうして先生をしています。

花まる学習会 北澤優太(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事