授業前に講師と話していたとき、「あと少しで今年度が終わりますね~」という何気ない言葉に衝撃を受けました。慌てて残りの授業数を数えてみると、ほんの数回。いままであまり気にしていなかったのですが、もう今年度も終わるのだという事実を突きつけられたような感覚になりました。そんな気持ちで子どもたちを迎え入れると、「あれ、Aってあんなに身長高かったかな」「Bの字がきれいになっている!」「Cは計算がはやくなったよな…」なんていろいろと考えてしまいます。毎週見ていると気がつきにくいけれど、4月と比べると、「みんな成長したなぁ」と感慨深くなります。
字や計算などのわかりやすい部分はもちろんですが、見えない部分、心の成長を感じることも多くあります。たとえば先日、この2年間で初めてDちゃんが手を挙げて発表しました。彼女にとって「手を挙げる」という行為は相当勇気がいることだったでしょう。発表し終わり、みんなから拍手をもらったときの安心したようなDちゃんの表情は忘れられません。
大きな成長にはターニングポイントとなる日があるな、と思っています。Dちゃんのような成功体験はもちろんですが、失敗体験、というのもターニングポイントになりえます。ちょうどこの時期に起きた、ターニングポイントになったであろうできごとをお伝えします。
4年生のEくんは、気分が乗らなかったり宿題をやりきれなかったりすると、教室をお休みすることがありました。もちろん宿題はやってきてほしいけれど、それ以上に授業に参加してもらいたい。そこで本人と話して、少し宿題を減らすことにしました。習慣をつけられたら元に戻そう。それを決めると、彼の表情からは安心とともに、ちゃんとやってきます! というやる気が見えました。
そして翌週、低学年クラスの引き渡しを終えまわりを見渡すと、泣きながらお母さんと一緒に歩いてくるEくんの姿を発見しました。驚いて訳を聞くと、ぽろぽろ涙をこぼしながら「全部宿題をやったのに、ひとまとめにして机の上に置いてきちゃった…」といいます。彼を預かり、教室前で一緒に休憩。改めてゆっくり話を聞きました。すると多少落ち着いたのか、涙は止まり、先ほどよりも丁寧に理由を話しはじめました。宿題には昨日までにぜんぶ取り組めたこと、バスに乗っているときに持ってくるのを忘れたことに気づいたこと、お母さんに電話をして相談したこと。宿題を忘れてきたのは良くないこと。けれどいままでと違うのは、逃げずにどうにかしようと行動した、という部分。ここに彼の成長を感じ、それを本人に伝えました。しっかり気持ちを切り替えられたタイミングで一緒に教室に入りました。
その日、Eくんは心なしかいつもよりも授業に集中していました。普段よりも計算スピードが速く、解き終えたあとも間違いがないか自ら見直し。Sなぞぺー(高学年の思考力教材)の解説の時間には一番前に来て、うんうんとうなずきながら聞いていました。
そこからはたまに忘れることもあったけれど、基本的には毎週しっかりと宿題に取り組むようになりました。それだけでなく、宿題の正答率が上がっていたり、サボテン(毎日取り組む計算教材)を3分以上かかっても最後の問題までやりきってきたり、字が読みやすくなっていたり。取り組みの質が確実に上がっていったのです。いま振り返ると、Eくんの学習への向き合い方が変わったタイミングはあの宿題を忘れた日です。
計算教材「サボテン」には、「過去の自分との勝負」というテーマがあります。1ページ目は間違いだらけだったかもしれないけれど、1か月コツコツ取り組めば必ずはじめよりもできるようになっている。だから人とではなく過去の自分と比べ、成長を感じよう。私はこんなメッセージを込めて伝えています。同じように、いまの子どもたちを4月のときの彼らと比べれば、成長点がいーっぱい見つかります。引き続き成長点をたくさん言葉にして、一人ひとりに伝えてまいります。
花まる学習会 清岡悠河(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。