【花まるコラム】『人生を支える一冊の絵本』右田優羽

【花まるコラム】『人生を支える一冊の絵本』右田優羽

 小学生クラスでは読書のきっかけ作りとして「読書ラリー」という取り組みをおこなっています。読書には語彙力や文章力を高めるメリットがありますが、それだけでなく、本が人生の指針や支えになることもあります。今回は私の人生の支えである『葉っぱのフレディ』という絵本を紹介します。

 大きな木に生まれた葉っぱのフレディ。同じ木に生まれた葉っぱのダニエルから、自分が葉であることや季節のことを学びながら仲間たちと毎日を過ごします。春に生まれ、夏は風に吹かれ楽しく過ごし、秋には色が変わり(紅葉)、そして冬になり死ぬときがやってきます。生きるとはどういうことか。死とは何か。アメリカの哲学者レオ・バスカーリアが書いた、「死」について考えさせられる絵本です。
 あらすじだけ聞くと非常に重い話のように感じられますが、温かみのある挿絵もあり幼少期からこの絵本が大好きでした。私がこの絵本を大事にしている理由は、年齢を重ねるごとに、読んだあとの印象が変わるからです。初めて読んだのは小学生のとき。祖父母からプレゼントとしてもらい読みましたが、あまり理解できず「葉っぱがかわいそうだな」という印象でした。「死」というものについて考えることもなかったため、葉っぱが死んでしまう悲しい話という解釈で終わっていたのだと思います。

 それから高校生になり久しぶりに読んでみると、ただ悲しいだけでなく生きる意味や命の尊さについて考えさせられる内容だということに気がつきました。決して死にたいと思っていたわけではありませんが、友人関係や進路などに悩むことも多く、感じ方がガラッと変わったのだと思います。そして心に響く言葉をこの絵本からたくさんもらいました。なかでもずっと心に残っているのが、死ぬことを怖がるフレディに対し友達のダニエルが言った「まだ経験したことがないことはこわいと思うものだ。でも世界は変化しつづけている。葉っぱが緑から紅葉するように死ぬということも変わることの一つなのだよ」という言葉。この先の将来に漠然と恐怖心を抱いていた私は、経験したことのない未来が待っているのが怖かったのだと気がつきました。怖いのは私だけではない、みんな不安や恐怖を抱えて生きているのだと、この言葉に安心させられたのを覚えています。

 それから数年後。再度読んでみると、この絵本は「死」だけがテーマではないということに気がつきました。紅葉の時期、同じ木の葉っぱなのにみんな色が違うことを不思議に思ったフレディに対し、友達のダニエルは言います。「いる場所が違えば太陽に向く角度が違う。なにひとつ同じ経験はない。だから紅葉するときはみんな違う色にかわるのさ」経験によって色が変わるというダニエルの言葉。人も同じではないでしょうか。さまざまな経験によってそれぞれの色や個性が出ます。誰一人として同じ人はいません。自分らしさを見つけていく大切さも伝えているのだと感じました。

 『葉っぱのフレディ』は命の尊さ、経験を積むことの大切さ、人生の学びが詰まっている絵本です。大人になってから“なぜ祖父母は幼い私にこの絵本をくれたのだろう”と考えることがあります。小学生にはなかなか重い内容ですし、「死」を理解するには難しい年齢です。これは憶測でしかないですが、何もなければ私よりも先に祖父母は天国に行きます。そのことを考えたときに「死」というものがどういうものなのか私に伝えたかったのだと思います。
 この絵本のなかで死ぬことを「引っ越し」と表現している部分があります。死ぬことは違う世界への引っ越しであり、死んだあとも命は永遠に生き続けていると絵本には書かれています。会えなくなっても違う世界で命は生きているということを、絵本を通じてわかってほしかったのかもしれません。

 身近な人が亡くなったとき、自分に子どもができたとき、自分に「死」が近づいたとき、きっとまたこの絵本の感じ方は変わるでしょう。『葉っぱのフレディ』という、人生を支える一冊に出会えてよかったと思うと同時に、ぜひ子どもたちにも自分の人生の一冊を見つけてほしいと思います。

花まる学習会 右田優羽(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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