【花まるパパ社員のわが家の自由研究⑤】『大人になっても、おじいちゃんになっても、忘れないよ』臼杵 允彦 2024年9月

【花まるパパ社員のわが家の自由研究⑤】『大人になっても、おじいちゃんになっても、忘れないよ』臼杵 允彦 2024年9月

 わが家の長男(小4)は、小1の頃、学校でよくいじわるをされていました。モジモジくんだったので、それがエスカレートしていったのです。親として心配ばかりが積もる日々でした。そのため、深夜に妻と話し合うこともしばしば。やがて夫婦の間で一つの想いが強くなっていきました。
「親が出るのではなく、息子にはもめごとをはねのけていけるような人に育ってほしい」
「どうしたら、そうなれるかな?」と妻。私はすかさず「サマースクールに行かせよう」と一言。花まるの野外体験では、初めて会う子たちが班を組み、喧嘩をしたら子ども同士で折り合いをつけることを大切にしています。そのため、私はこれまでにたくましく「もめごと」を「こやし」にしていく子たちを、幾度となく見てきました。わが子もきっと花まるっ子たちのように強くなれると信じているからこそ、家訓のように決めたのです。息子には、花まるのすべての野外体験に行ってもらおうと(可能な限り)。

 小1で初めて参加した夏の3泊4日は、親子ともにドキドキでしたが、帰ってきた息子は、鼻の穴をパンパンに膨らませながら「また行きたい」と目を輝かせていました。小2で参加した雪国スクールでは「喧嘩して泣いた」と言っていましたが、ちゃんと仲直りしたようで、班で盛り上がった「手打ち野球」が家でも流行りました。もめごとをこやしにできたのだと安心しました。

 やがて小3になる頃には、学校でもひょうきんな一面が出るようになりました。ある日、授業参観に行った際、女の子が私のところへ来て、「Kくん(息子)のお父さんですか? Kくんモテるんですよ」とだけ言って去っていきました。夜、息子と一緒にお風呂に入りながら事情を聞きました。
「K、学校でモテているの?」
「結婚したいと言われた」
「それで、なんて答えたの?」
「大人になっても、おじいちゃんになっても、忘れないよ」
「……」
 言葉が出ませんでした。恋愛の「れ」の字も知らない息子がこう答えたのは、本人曰く、結婚はできないけれど、その子を傷つけることはしたくなくて、考えて言ったことだったようです。
 こうした気持ちは、どこで培われたのか。野外体験だとすぐにピンときました。
 目をつぶると、去年引率したサマースクールの情景が、昨日のようによみがえってきます。

 川遊びで、Aくんは大きめの石を一生懸命集めては温泉をつくっていました。やがて「できた!」の声とともに呼ばれた私。「ここに座ってごらん」と案内され腰を下ろすと、雄大な越後の山々が視界に入ってきたのです。「毎年行っているはずの湯沢の川に、こんな絶景ポイントがあったなんて!」そう感動と癒しに浸っていると、Aくんが嬉しそうに私の顔を眺めていました。

 Bくんは、何度も川に顔をつけては、何かを探しているようでした。近づくと、「ヌシがいた!」と教えてくれました。「ヌシ!?」その名を聞いた子たちが続々と集まってきます。せーので潜り、水中で息をひそめ、目配せし合いながら、ゆっくりと岩を持ち上げては下ろしていきます。やがて、捜索活動の息がぴったり合ってきた頃、見たこともないオレンジ色の魚が私たちの視界に飛び込んできたのです。「ヌ……」と誰かが言いかけた瞬間、それは電光石火のごとく去っていきました。顔を上げ、みんなで叫びました。「ヌシだーーー!!」

 何を回想しても、その登場人物すべてが「みんなと一緒に幸せになりたい」という気持ちで、自然に遊んでいたように思います。してもらって嬉しかったことをやろうとするのが子どもで、思いやりの心は自ずと育まれると私は信じています。先の息子が告白された話でも、目の前の人を大事にすることは、教わらなくてもできると感じました。その価値観は、仲間との出会いや、ドラマチックに思いおもいに遊ぶことのなかでこそ醸成されるものなので、私は、わが子の心を強くするのを野外体験に頼ったのかもしれません。

 さて、「次も野外体験に行く?」と息子に聞くと「当たり前」と返ってきます。理由は「友達をつくるのが楽しいから」だそうです。大人も子どももみんな友達になれる。そう気づいてからかもしれません、息子が学校でいじわるされなくなったのは。

花まる学習会 臼杵允彦

わが家の自由研究カテゴリの最新記事