【花まるパパ社員のわが家の自由研究⑪】『続編:長女の彼氏がはじめて家に来る!』箕浦健治 2025年3月

【花まるパパ社員のわが家の自由研究⑪】『続編:長女の彼氏がはじめて家に来る!』箕浦健治 2025年3月

 その日は雲ひとつない晴天の日曜日でした。いつもより早起きした妻は、一心不乱に掃除をしていました。「娘の彼氏に会うのはどんな気持ち?」の問いに、「どんな彼氏かな?」と的外れの返答をした私。娘が選んだ人だから大丈夫、というのが本音でした。

 約束の時間より少し早く家のインターフォンが鳴りました。こういうときは、誰が先に行くのがよいか、家にいる皆が固まりました。
 いち早く娘が玄関に行き、ドアを開けます。私は正解がわからず、とりあえず玄関に行きました。そこには、優しそうな青年が上半身くらいの大きな箱を持って立っていました。「こんにちは! 〇〇です」という声から緊張していることが伺えました。
 「これ、みなさんで食べてください」と言いながら、上半身くらいある大きな箱を私に渡してくれました。手に取ると想像以上に重く、「金貨でも入っているのか」と言いそうになるのを必死でこらえました。

 皆が座ると異様な空気がリビングに流れました。場違いなテレビの音が気になり、静かにリモコンでテレビを消しました。テレビの音がなくなるとさらにその場の空気が重くなりました。そこで初めて重い箱をずっと持っていることに気がつき、「これ、ありがとうね」と彼氏に伝えて箱を開けることにしました。中には30個ぐらいの水ようかんがぎっしり入っていました。
 「わが家で水ようかん好きな人はいないよな」と心のなかで突っ込みながら、笑顔でお礼を伝えました。大量の水ようかんはわが家の冷蔵庫の三分の一を占めることになり、1年以上わが家の冷蔵庫にいることになるとは、そのときは知る由もありませんでした。

 この重い空気を見事に打ち砕いたのは次女でした。長女と長女の彼氏と何度か遊んだことがあったので、フレンドリーに彼氏に話しかけます。
「ゲームセンターでぬいぐるみを取るのがうまいんだよ」
「車は〇〇に乗っているんだよ」
「仕事は〇〇をしているんだよ」
と全部次女が私たちに教えてくれました。それに対して「そうか、そうなんだね」という返答しかできない私。「はい、そうなんです」としか言えない彼氏。

 そして、しばらくの沈黙のあと、次女が「スーパーマリオをして仲良くなろう!」と言い出しました。断る理由も見つからず、私と長女と次女と彼氏でスーパーマリオをすることになりました。私の時代のスーパーマリオとは違って、いろいろなアイテムや仕掛けがありました。そのたびに娘に聞いて、足手まといにならないように必死で父親の威厳を保とうとしました。一時間ほどして最後のボスを倒すことができました。
 ゲームをしながら長女や次女にかける言葉や態度から、「この彼氏は本当に優しい青年だ」と切に感じることができました。

 彼氏が帰ってから、長女に「どうだった?」と聞かれました。「優しくてとてもいい人だね」と答えると、とてもうれしそうにしていました。
 その様子を次女がニコニコしながら見ていました。そのとき思いました。実は一番心配していたのは次女だったんだ、と。姉を心配し慕う姉妹愛を父親として嬉しく思いました。いつもおどけている末っ子がこのときばかりは頼もしく感じました。

 昔から娘の友達を否定したり、見かけやうわさで判断したりはしてきませんでした。娘を信じるということは、自分の育て方を信じるということだと思っています。
 先回りではなく、分岐点に立ったときにそっと背中を押せるような父親でありたいと思っています。

 いまでも思い出すのは、ラムネの瓶の形をしたお菓子を私に差し出して「あ~げ~て~」とはじめてしゃべったときのことです。あれから20年以上、娘は娘のペースで成長し、素敵な男性ともめぐり逢ったんだと思うことができました。

 いまだに謎なのは、なぜ手土産が「水ようかん」だったのかということです。今度、彼氏が家に来たときに勇気を出して聞いてみようと思います。
 続編まで読んでいただき、ありがとうございます。わが家の事件簿「次女、突然〇〇になると言い出す!」はまたの機会に。

花まる学習会 箕浦健治

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