7月末から8月中旬にかけて開催した「花まるサマースクール」。そのかけがえのない日々の子どもたちの姿をお伝えします。
1年生のSくん。人生初の、親元を離れて過ごした3日間。初日から緊張する様子はなく、同じ班の上級生たちともすぐに打ち解けて、楽しく活動をすることができていました。しかし、2日目の日中の活動を終え、宿に帰ってきた直後のことでした。
部屋へ続く廊下を歩いていて、急に はた、と立ち止まったかと思うと、「…っ!!」。Sくんの目には、押し寄せる大粒の涙が。
「どうした!? 何があった?」と尋ねても、Sくんはしばらくの間、なかなか言葉を発することも、涙を懸命にこらえようとする顔を上げることもむずかしい様子でした。その後もそばで寄り添いゆっくりと話を聞くと、 涙の理由は、活動を終えた安心感からお母さんへの恋しさがブワッと湧き上がってきたからだったとわかりました。
「……リーダー」
数分経ち、私の顔を見つめるSくん。その瞳には、まだ少しだけ涙が残っていました。
「…あのね、リーダー、次は、何をやったらいい?」
ほんのわずかに震える声に、口元をきゅっとしめた力強いSくんの表情。お母さんがそばにいない寂しさや不安感よりも、「がんばりたい」「乗り越えたい」というSくんの決意のほうが勝っているようでした。
活動に戻りその時間にすべきことを自分の力でやり切ったSくん。その頃にはすっきりとした表情になり、また笑顔で友達と他愛のないおしゃべりを始めていました。
こういったやり取りもみられました。4年生のTくんと5年生のYくんの会話です。2日目、夜の活動でのことでした。
「おれ、そろそろ家に帰りたいよ~…」ぽつりとつぶやいたTくん。その言葉を聞いていたYくんは、寄り添うように、ぽん、とTくんの肩に腕を回すと「T、寂しいの? おれも去年参加したとき、お母さんに会いたくなっちゃってさ」と一言。Yくんの表情やその声色は、同じ経験を乗り越えた先輩としての心の余裕と後輩への気遣いを感じるものでした。しかし、それを聞いたTくんは一瞬ぽかんとして
「あ、おれ、早く家に帰ってゲームの続きしたくってさ」
「な~んだよ、もう~~!」
私もその展開は読めず、思わずYくんと一緒に笑ってしまいました。それでも、Tくんの言葉から「寂しいのかな?」と感じ取り、過去の自分のつらさと照らし合わせ、励ましたい一心で声をかけに行ったYくんの気持ちが本当に素敵だと感じました。
自分の力で。仲間と一緒に。それぞれの思いで頑張る子どもたちは、どの子も前を向いています。今年度のサマースクールでも子どもたちはたくましく、新たな自分へと歩み出しました。
花まる学習会 伊藤真衣(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。