【花まるコラム】『不満を感じたその後に』長谷川陽介

【花まるコラム】『不満を感じたその後に』長谷川陽介

 今年のサマースクールでは、『秘密基地の国』のコース責任者を担当しました。森のなかにあるものを自由に使っての基地づくり。子どもたちは行きのバスからワクワクしています。しかし、残念なことに到着すると天気は雨。3泊4日、この雨が上がることはありませんでした。幸い活動がまったくできないというほどの雨ではなかったので、状況により室外での活動時間を減らすなどしながら秘密基地づくりを行いました。そこで私が繰り返し子どもたちに伝えたのは、以下のようなことでした。

 「雨が残念なのは、自然な感情。我慢したり、嘘をついていやな気持ちをごまかしたりする必要はない。ただ、そのあとに『雨だからやらない』ではなく、雨でもとりあえずはやってみる。または別の楽しみ方を見つける。残念と嘆いていているだけではなく、与えられた環境でできることを考えることが大切」

この言葉には、
「いやだという感情を抱いてはいけない。どんなときでもポジティブに楽しまなければいけない」ではなく、「いやだという感情は自然なものなので受け入れつつ、そのなかでいま何ができるのかを前向きに考える」そんな人になってほしいという願いを込めました。しかし、ほとんどの子どもたちはそんな私の言葉は最初から不要なようでした。

 雨のなかでも黙々と秘密基地づくりを続ける子どもたち。ブランコにシーソー、ターザンロープに落とし穴。『小人の秘密基地』という名前がつけられたフォトスポットまであり、さながら森のなかに突如現れた遊園地のようでした。
 こんなこともありました。雨で川遊びを中止することになったとき、宿にある小型のプール(150㎝×150㎝程度)をお借りして、宿の敷地内にある空き地で班ごとに魚掴みを行いました。そこでせっかく持ってきたのだからと水着に着替えて魚掴みを行っていたのですが、魚掴みが終わった班の子どもたちが「遊んでいい?」と聞いてきたので、空き地のなかなら良いと伝えました。雨のなか、水着で鬼ごっこに興じる子どもたち。
 「雨だから~ができない」ではなく、「雨だからこそできる」遊びを考え夢中になって遊んでいる子どものたちの姿は本当に楽しそうで、感動的な光景でした。

 最近、「親ガチャ」という若者の造語があることを知りました。どんな親のもとに生まれてくるか、実力とは無関係に「運で人生が左右される」という意味をガチャガチャにたとえた言葉のようです。この「親ガチャ」という言葉に限らず、他者を羨み環境を嘆くことは人間ならありますし、それは自然な感情かと思います。しかし子どもたちには、与えられた環境を嘆くだけではなく、そこから何ができるかを考えられる人になってほしいと願います。比較から幸せは生まれない。その考えは、教育という仕事をすればするほど、確信に近づいています。

 

花まる学習会  長谷川陽介(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事