【花まる教室長コラム】『明日を描く力』坂村将介

【花まる教室長コラム】『明日を描く力』坂村将介

 あっという間に年の終わりが近づいてきました。私自身はいまだなお続くこのパンデミックのしぶとさを痛感しつつ、毎週の授業で顔を合わせる愛らしい一人ひとりの姿にほっとするばかりです。そして、週を追うごとに身体も顔つきも成長するその姿に、導き、支える立場であるはずのこちらがかえって励まされます。彼らとのエピソードは毎週数えきれないほどありますが、最近ひときわ印象深かった話を、ひとつ紹介したいと思います。

 現在3年生で、幼稚園生の頃から集団音楽教室とヴァイオリンのレッスンに通い続けるAくんは、なかなかのつっぱり少年です。お母さま曰く「食べすぎ」とのことですが、丸みを帯びつつますます骨太でがっしりとした体つきになってきました。眉間にしわを寄せ、「一応まあやってますよ」と言わんばかりの表情でいることが常です。年間20曲を超える海外の民謡や教会音楽を歌うこの教室にいながら、歌を歌うことがもうかなり恥ずかしいようですし、素直に振る舞うことは信条に反するようです。

 こんな調子でつっぱり、たまにふざけたりおどけたりするときだけ急にいたずらな笑顔を見せるAくんなのですが、ある1日だけは驚くほど真剣な表情になり、それを隠そうともしませんでした。それは、集団音楽教室小学生ベーシックコースで学期に1回行う作曲の特別授業の日のことです。これまでも確かに人の心を惹きつけるおもしろい作品を書くことがあったのですが、今回は数年間での積み上げがさらに実を結んだようでした。90分の授業で、10〜20秒くらいの曲を1曲完成させるくらいが子どもたちの平均的なペースなのですが、Aくんは開始15分ほどで「まあ、1曲できたけど」と言うのです。曲ができたら先生に弾いてもらうというのが通常の流れですが、Aくんは「いいよ弾かなくて」と付け加えます。きっとこれもまたちょっとした反抗なのかなと思いきや、「もう次の曲を書いてるから、とりあえずあとで大丈夫」とのことでした。すでに大物感が漂います。その後も次々と曲を書き、最終的には90分で5曲もの作品を完成させました。かなりの多作家ではありませんか。そして、曲のタイトルを考えることにも時間がかかる場合が多いなか、Aくんは曲が書けたらすぐタイトルを書くか、あらかじめ決めてすらすらと書くのです。作品の中には拍子(リズムの枠組み)が頻繁に変わる曲もあり、それがリズミカルで興味深いのですが、よく見ると【4分の5拍子→4分の4拍子→4分の3拍子→4分の2拍子→4分の1拍子】と、だんだんと1小節(リズムのまとまりの区切り)内の音数が減っていました。「どうして減らしていくの?」と聞くと、「カウントダウン」とのことです。なるほど、だんだん切迫する感じがして効果的です。まわりの子どもたちも楽譜を覗きに集まってきて、「よく考えつくねえ」「そんなのあり!?」と口々に言って感心するのでした。

 その後は、すまし顔ながら明らかに積極的に自分で書いた譜面を見せに来ます。そして、1枚の五線紙にたくさんの曲が書かれているため、区切りがわかりづらくないようにという配慮なのでしょうか。該当しない曲の部分をわざわざ手で隠したり折ったりして、「ここからここまでがこの曲」と、記録のための写真撮影への協力体制も完璧です。

 普段は思いきり楽しむ姿を見せることに恥じらいがあるようですが、この日のAくんの躍動ぶりは、そんないつもの様子からは考えられないものでした。そんなギャップに微笑みつつAくんを見守るなか、芸術、そして表現することの力や価値を改めて考えさせられました。

 何かと慣れないことが多い情勢はいまだ続いています。しかし、そんな荒波にあっても、堂々たる表現で人を惹きつけ、心地よい驚きや刺激、そして幸福をもたらす。Aくんの賢くも自由な表現には、そんな力があるように思います。そして、私たちに次の一歩を踏み出す希望を与え、指針まで示してくれていると言ったら大げさでしょうか。Aくんだけでなく、同じエネルギーがクラス中にあったことも確かです。これからの時代を照らすような頼もしい活躍に、私たちも負けてはいられないなと感じるひとときでした。

花まる学習会/アノネ音楽教室 坂村将介(2021年)


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それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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