【花まるリビング㉟】『経験が「思い込み」になる、落とし穴』勝谷里美 2024年5月

【花まるリビング㉟】『経験が「思い込み」になる、落とし穴』勝谷里美 2024年5月

 3番目、2才5か月の次女。姉、兄のときよりも自分の子育て経験値は上がっているので、これまでのところ「ほとほと困り果てた」ということはあまりなく、すくすく成長しています。が、自分に経験があるがゆえに、「思い込み育児」になってしまっていたなぁ、と思った出来事がありました。
 あまり手がかからないとはいえ、絶賛イヤイヤ期の次女。朝と夜は、歯磨きをいやがって逃げ回ります。長女の2歳児検診のときの「歯は、押さえつけてでも磨きましょう」という指導をもとに、最終的には、ぐっと力で押さえつけて磨いていました。毎回、お互いにつらい時間……。
 ある日、ふと、(あれ、そういえば、歯磨きの歌ってあったなぁ。歌が好きな子だし、流してみるか)と思って流してみたところ、いまのところ、効果てきめん! 「自分で歯ブラシをもってみがくー♪」と、のりのりでやってくれたのです。
 「『歯磨き』や『お着替え』のイヤイヤ期には、歌を流してみよう!」これは子育てハックとしては王道といえば王道なのに、なぜ、すぐに思いつかなかったのか。それは、わが家の場合なのですが、上の二人のときには、この技が効かなかったからです。何回か試して失敗していたので、「歌は効果なし」と私が思い込んでいただけで、子どもの性格、好みは十人十色なのだから、フラットな気持ちで早く試してみればよかったなぁ。
 そして、さらに記憶をたどっていくと、この「歯磨きの歌」は、上の二人に対しても本当に効果がなかったのかな? と、疑いが出てきました。

 長女のイヤイヤ期は、まだ子どもが一人だったので私にも多少余裕があり、イヤイヤされても花まるの「渡し方勝負」を駆使しながら、対応していました。歌も何回かは効果があったけれど、ずっとは効かず、だったら……と、あの手この手を試す余裕がありました。そのうち歌を使うということもなくなったのですが、もしかしたら、毎日ではなく、時々「歌」に頼っていてもよかったのかも?

 2才下の長男のイヤイヤ期は、まったく余裕がなく、夜はいかにして早く布団に入れるかということばかり考えてしまっていて、「歯磨きの歌を流す」時間すらもったいないー、と私がせかせかしていたような気がします。もしかしたら、歌を流していたら、効果はあったのかもしれません。

 なんとなく思い込んだ「歯磨きの歌は効果なし」という表面上の経験は、意外と自分のなかに根付いていて、当たり前に感じてしまっていたけれど、対子ども、に当たり前はない。親子であっても、きょうだいであっても、別の人間。また、同じ子であっても、その時々の環境や子どもの成長、などいくつも変化していく要素があるなかで、何をもって「効果的」といえるのか。それをあてるのは、すごく難しい。

 今回は生活面でしたが、今後、学習面でも同じことがいえそうです。(私にはこの学習方法が向かなかったから、わが子にも向かないだろう)(姉にはこれが効果的だったから、弟にもよいはず)といった、「思い込み育児」になっていないか。自分の育児の幅を狭めてしまうことなく、柔軟に、フラットに、試行錯誤を繰り返していきたいなぁ、と思った事例でした。

花まる学習会 勝谷里美


🌸著者|勝谷 里美

勝谷里美 花まる学習会の教室長を担当しながら、花まる学習会や公立小学校向けの教材開発や、書籍出版に携わる。現在は、3児の母として子育てに奮闘中。著書に『東大脳ドリルこくご伝える力編』『東大脳ドリルかんじ初級』『東大脳ドリルさんすう初級』(学研プラス)ほか

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