【花まるコラム】『「楽」と「楽しい」』 加藤崇彰

【花まるコラム】『「楽」と「楽しい」』 加藤崇彰

 9月におこなった保護者面談でお母さまからお聴きしたHちゃんのエピソードをお届けしたいと思います。
 今年の夏休みに、鉄棒で「空中逆上がり」ができるようになりたいと、一生懸命練習をしていた3年生のHちゃん。夏休み最終日の前日、8月28日に、Hちゃんはじゆう作文に、こう書いていました。

 わたしは、宿題で、空中さか上がりのれんしゅうをしています。この前やったときにマメのかわがむけてしまいました。でも、8月29日にはできるようにならないといけないので、ガーゼをマメのところにまいて、ぐんてをしてやっています。あとはうでを引き上げればいいけれど、それができなくてこまっています。弟のほうが、いきおいがあるけれど、そのまま下に落ちているのでできません。でも、わたしは、いきおいより前にたおれているので、弟とわたしを合体させればいいけれど、できないのでざんねんです。でも、いつも「弟とわたしが合体するとできるのになぁー」と思っています。

 マメができるほど頑張り、そして、マメが破れてしまってもなお、投げ出さずに挑戦し続けるHちゃんの根性や気迫がひしひしと伝わってくる作文でした。そして翌日、迎えた夏休み最終日。この日もお母さまと一緒に、朝から自宅の鉄棒で練習をしていたそうです。「素直に『できませんでした』って書こうか?」とお母さまが聞くも、「やる!」決して諦めなかったHちゃん。
 その強い想いは、午後になって実りました。ついに成功したのです! お母さまとHちゃんは、涙を流しながら狂喜乱舞。そして、その二人の歓喜を聞き、お父さまや弟も「できたんだ!」と駆けつけ、家族で喜びを分かち合ったといいます。「今年の素敵な夏休みの思い出ができました!」とお母さまはおっしゃっていました。

 もう8年近く前になりますが、花まるの野外企画「親子海釣り王国」にスタッフとして参加したときにも、最後まで諦めなかった親子のエピソードがありました。その親子は、何度釣り糸を垂らしても魚を釣ることができずにいました。「どうすれば釣れるの?」とコツを聞いては実践の繰り返し。決して諦めることなく糸を垂らし続けました。そして最後の最後、「いま垂らしているのが最後です! 帰りますよ!」とスタッフの号令がかかったタイミングで、見事その子が魚を一匹釣り上げたのです。その場にいた私も思わず胸が熱くなり、お父さまとその子と3人で抱き合って大喜びしたことをいまでも鮮明に覚えています。

 「楽(らく)」と「楽しい」はどちらも同じ漢字ですが、その意味は大きく異なります。私は山登りが趣味なのですが、苦労をしてやっとの思いでたどり着いた山頂からの眺めほど心に深く刻まれ、「楽しい!」と感じるものはありません。
 これからを生き抜いていくなかで、困難や苦悩に出くわす場面はたくさんあると思います。子どもたちにはそんなときこそ、簡単にあきらめてしまうのではなく、「逆境こそチャンス! いまを楽しむぞ!」と、顔をあげて踏ん張り、その状況を楽しみながら、噛みしめて生きていってもらいたいと思います。同時に、私自身もそんな人生を歩んでいきたいと思います。

花まる学習会 加藤崇彰(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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