「スキーってこんな楽しかったんだあ」
リフトにのったIくんの声は、誰かに届ける声というよりは、心の底から湧きあがる喜びの声に聞こえました。
3月の花まる雪国スクールが無事終了しました。私の心はすでに子どもたちと入道雲の下、川に飛び込むサマースクールに想いを馳せています。
花まる雪国スキースクールでは、ステップアップコースに参加しました。私の役割は、班の子と一緒に滑れない子をまとめて指導することです。
ステップアップコースに参加する子は、全員スキー経験があります。長年指導するなかで見えてきたのは、彼らは滑れないのではなく、怖さが先にきてしまい身体がガチガチになっているということです。
班と離れていやな気持ちになっている子もいます。まずは「ゴールデン(リーダーネーム)と特別なことをするよ」とワクワクした気持ちを子どもたちにのなかに作ることを心がけます。
次にジャンプをしたり、手足をバタバタさせたりして身体をほぐしていきます。このときに一人ひとりに声をかけ、苦手なところを言葉にしてもらいます。私はそれを聞いて、子どもたちには聞いてもらえたと安心感をもってもらうようにします。
ここまでくれば比較的緩い斜面に連れて行って、指導するのではなくいきなり滑りはじめます。
「ねえ、見て。あの雪山きれいだよね」「あの木を見てみな、雪の結晶が見えるよ、キラキラしているね」と声をかけると、子どもたちは思い思いに自然のなかで感じたことを言葉にしていきます。そうすると、怖さで下を向きがちだった子どもたちの顔が上向きになっていきます。
もちろん技術的なことも教えますが、ここは花まるの野外体験の場です。自然のなかで何かを感じ、それを言葉にする感性をもってもらいたいと思っています。
「ゴールデンの顔を見て~」「 ゴールデンの顔のマネしてみてね」と私は変顔になります。子どもたちは大笑い。あれだけガチガチだった身体がほぐれると怖さもなくなって、不思議と転ばなくなり、スキー板を自在に操れるようになります。
「よし、いくぞ、顔にあたる風が気持ちいいね」
「ひゃっほ~い」
「しゃ~~~~」
滑っている子どもたちの顔は雪の反射でさらにキラキラ輝いています。スキーテクニックも大事ですが、自然のなかで感じる心地よさ、開放感、美しいものを美しいと感じる感性、畏敬すべきものへの感受性なども子どもたちに感じてほしいと思っています。なぜならこれから長い人生のなかで、頭だけで考え、悩み行き詰まってしまったときにこの原体験を思い出してほしいからです。
そこには仲間と自然のなかで滑った喜び、雄大な山々を見て感動したこと、スキーで滑ったときに顔に伝えるひんやりとした空気、これらがあれば深い人間の喜びの根源を取り戻せるはずです。
それは野外体験の場だけではありません。たとえば慌ただしい日常のなかで子ども一緒に夜空を見上げてみる。そこに何かを感じるわが子がとなりにいるはずです。
花まるの授業でも伝えたいことは一緒です。 日々の授業でも「勉強って楽しい」と思える原体験を子どもたちと作っていきます。
花まる学習会 渡辺栄治(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。