【花まるコラム】『涙のバトン』高橋大輔

【花まるコラム】『涙のバトン』高橋大輔

 7~8月に開催されたサマースクール。複数のコースに参加したのですが、そのうちの1コースは班を担当するリーダーとして2泊3日を過ごしました。朝起きてから眠りにつくまで、子どもたちと最も濃密な時間を過ごせるのが「班リーダー」です。一番近くで過ごす立場だからこそ知ることのできた、ほんの1分間の出来事。そのひとコマをご紹介します。

 集合場所は横浜。コースは「秘密基地づくりの国」です。出発前、子どもたちは「緊張」や「不安」に包まれています。このような状況はよくあること。大抵、バスに乗って自分のホームタウンから離れるにしたがって、「らしさ」を取り戻していきます。親元を離れることへの覚悟が決まり、気持ちが切り替わるのでしょう。ただ、今回のチームの変化は、こちらの想像を超えていました。○○ゲーム、○○コンテストなど、表彰や順位にかかわるレクが始まると、一致団結。燃えに燃える班の子どもたち。勝負根性が原動力となり、バスのなかだけでなく宿についてからも、勝負ごとにかんしては、連勝街道まっしぐら。2泊3日のなかで、破竹の11連勝を達成したのです。これまで数多くのコースに参加してきましたが、類を見ないほどの記録でした。

 とはいうものの、部屋では有り余るエネルギーが噴出し、大小さまざまなもめごとが起きていました。チームの合言葉は「喧嘩をしても仲直り」「さっきよりも一歩進んだ関係づくり」です。その合言葉を掲げながら、一つひとつのもめごとを乗り越え、関係性を前進させていったのです。

 そんな子どもたちの空気がガラリと変わったのが、就寝前の時間です。遊ぶ・食べる・話す・笑う・ぶつかる…1分1秒を惜しむくらいギュッと凝縮された時間を過ごしてきましたが、ふと訪れた空白の時間に、ここまで蓋をしていた感情が溢れ出ました。そう、ホームシックです。「おやすみ…」と、電気を消そうとした瞬間、2年生Tくんが「ヒック…! ヒック…!」としゃくりあげるように泣き出しました。それにつられて1年生Jくんがさめざめと泣き始めます。大抵の場合、どんな言葉を投げかけても、なかなか届くことはありません。頭のなかは「ママ」「パパ」の一色。落ち着くまで、寝入るまで、傍にいてあげるだけです。その日は結局30分程でJくんが、1時間程でTくんが眠りにつきました。

 ホームシックは、愛情の証明書です。それだけお母さんやお父さんを想っているということ。子どもたちの頑張る原動力・心の拠り所がどこにあるか思い至りました。

 さて、翌朝の2人はといえば「昨日の涙はどこに!?」です。何事もなかったかのようにケロリとしています。基地づくりや川遊び、室内遊びに全身全霊を傾けていました。そして訪れた2日目の夜、翌日はいよいよ最終日です。すると、2年生Kくんが、部屋の隅で膝に顔を埋めています。Kくんは自分のことは自分でおこなうしっかり者、仲間の様子にも心を配り、2年生ながらチームのまとめ役を担っていました。ここまで精一杯気を張っていたのでしょう。「…ママに会いたい」ポツリと一言。堰を切ったように、涙が流れました。そのとき、そっと傍に寄り添ったのは、昨日涙を流したJくんとTくんです。Jくんは隣で手を握り、Tくんは背中をさすりながらKくんに言葉をかけていました。

「僕は昨日泣いたから大丈夫。だから、Kも明日はきっと大丈夫」

 Kくんは、小さくうなずきながら泣き続けました。この一連のやりとりは、時間にしてほんの1分程度。Tくんの言葉が心に沁みわたったのでしょう。Kくんは涙を拭って布団に入り、スッと眠りにつきました。Jくん、Tくんもすぐに寝息を立てて寝入っています。3人とも穏やかな寝顔でした。

 冒頭、華々しい連勝記録のことを書きました。ただ、私の心に深く刻まれているのは、3人の心と心が通い合った、何にも代えがたいひとコマです。このような話は、子どもたちの口からは出てこない「真っ白なひとコマ」かもしれません。けれど、心の奥底に確かに刻まれているもの。子どもたちは、そんな瞬間を重ねて生きています。その場に立ち会えたこと、今夏一番の思い出です。

花まる学習会 高橋大輔(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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