【花まるリビング㉚】『子どもは親の想像を超えていく』勝谷里美 2023年12月

【花まるリビング㉚】『子どもは親の想像を超えていく』勝谷里美 2023年12月

 この四月に、一年生になった長男A。四月末の先生との面談では「真面目に頑張っています」とのこと。いいスタートを切れたのかな? と思っていたのですが…。
 五月、学校の宿題が本格化し、「くりあがりのない足し算」「くりさがりのない引き算」の計算カードが宿題で出るようになりました。家で「計算カードをやるよ」と声をかけたとたん、「いーやーだー」と泣きわめく。花まるの1日1ページの計算の宿題「サボテン」も同じように泣きわめく。
 計算がまだスムーズにできないのがいやなのかな?と思い、「わからないときは指を使ってもいいんだよ」と言っても「いやだ」と泣く。肘をつく。机につっぷす。絵を描く、好きなポケモンでたとえるなど、親側の試行錯誤も効果なし。あまりに態度が悪いので、何度、怒りを爆発させたことか。宿題=いやな時間という認識になってしまい、長男の態度がますます硬化。日により波はありつつも、一学期間、ずっとそんな状態でした。

 九月。サボテンが、一年生の算数の山場のひとつ「くりあがりの足し算」に入りました。
(ああ、ますます大荒れだ)
ごくっとつばを飲み込み、そっとAの前で、新しい単元の解説動画を流します。
(ふむふむ、動画は一応観ているな。でも、いつ号泣するかな)と構える母。
動画視聴終了。「最初のページだから、タイムは計らないよ?」と言うと「計っていいよー」という返事。
(ん? 意外と大丈夫そうだな)
「よーい、スタート」のかけ声で、素直に鉛筆を動かし始める息子。
⁉ ⁉
(え、くりあがりのない足し算のときの号泣はどこにいったの!?)と驚愕する母。結果、全問解き終わり「できたよー」と淡々とサボテンを見せてくれました。
 ちょっと待て、と。ここはあえて掘り下げなくてもいい(嫌味を言わなくてもいい)素直にほめるところ!…とは思ったけれど、どうしても、ひとこと言いたくて仕方がない。
「え、どうして、6+2の問題はわからないって号泣するのに、くりあがりのある6+7とか、6+8はすんなり解くの…!?」
「だって、こっちのほうが、工夫することがあっておもしろいじゃーん」と、息子の一言。そのまま、呆然とする私をおいて、息子はすたすたと歩いて行ってしまいました。
 なんだか、もう、脱力でした。この一事例だけをとっていうと、彼にとっては、単純計算より、いくつかステップのある計算のほうが「おもしろかった」。だから、素直に向き合った。問題に自ら取り組む基準は、スムーズにとける・とけない、ではなく、おもしろい・おもしろくない、だった。
 息子の一学期の宿題への取り組みを見て、彼は計算に対して苦手意識があると思っていたので、(もっと就学前に数え上げをやればよかった)(“ちゃんと”を求めて叱りすぎちゃったかな)と親なりにぐるぐると反省するところがあったのですが、そういったものを軽々ととびこえて、予想外のことをしてくるのが子ども。いつだって、こちらの思う枠の中にはとどまってくれないものです。
 一年生一学期の“号泣宿題期間”を経て、考えたこと。(就学前にある程度学習に向き合う体力をつけておくのは必須、体力と勉強に向かう姿勢は関連する、数え上げ経験はとても大事、書き順は定着させるのに時間がかかるから、素直なうちに楽しく触れるのがよい)など、数多くありますが、母親としての一番の学びは、
「子どもは親の想像を越えていくから、心配し過ぎても仕方がない」
 まったく心配しない、というのはきっと無理だと思うのですが、その子が見ている「親には見えていない世界」を信じて、そっと見守ってあげることを大切にしていきたいと思います。

花まる学習会 勝谷里美


🌸著者|勝谷 里美

勝谷里美 花まる学習会の教室長を担当しながら、花まる学習会や公立小学校向けの教材開発や、書籍出版に携わる。現在は、3児の母として子育てに奮闘中。著書に『東大脳ドリルこくご伝える力編』『東大脳ドリルかんじ初級』『東大脳ドリルさんすう初級』(学研プラス)ほか

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