その7 下がる偏差値とパンドラの箱 (6年生11月)

その7 下がる偏差値とパンドラの箱 (6年生11月)

 秋は怒涛の模試シーズン。オープン模試の結果を見てみると、なんと、9月、10月、11月と偏差値が5ずつ下がっている……。いままでは乱気流だったが、この時期に下がり続けるとは、なにかのホラーだろうか⁉ サメ映画の効果音を思い浮かべて、しばらく現実逃避してみる。一息ついたのち、志望校も考え直しかなぁと、さっそく担当のT先生に面談を申し込むことに。
すると、T先生は開口一番、
「やっちゃいましたね~Sくん」
と穏やかな顔でほほ笑んだ。え、そんな楽観視できる状態ですか、これ⁉
「いつもは取れている問題ですけれどね~」
ジェントルマンなT先生のいい声に、ささくれだった心が少しずつ癒されていく。確かにオープン模試は散々だが、学校別の模試では、60%合格率が出ているときもある。そして9月、10月の段階では、まったく合格圏内にひっかからなかった過去問演習も、11月に入り、ようやく合格最低点を超える年度も出てきた。相変わらず過去問解きなおしのコメントは、「国語の論文を頑張る」などと的外れで、「いつまでに、何を、どう、頑張るのさ!」と力いっぱい突っ込みたくなる状態だが。面談の結果、迷いつつも、いったん志望校群はこのまま変えないことになった。

 面談後、しばし考える私。スケジュール管理と体調管理に専念してきたが、今後も勉強の中身には手を触れないべきか、少しは手を出すべきか……。一度でも、できていない中身まで見ちゃったら、どうしても手や口を出したくなるよなぁと。
 ふと、Nちゃん親子のことが頭をよぎる。保育園の頃から仲良しのNちゃんは、Sにとっては幼馴染の女の子である。まっすぐ素直で、特訓が大好きで、いつでも全力投球。Nちゃんのママとは、母たちの息抜きとして、先日おしゃべりしたばかり。
 志望校の決め方は、ご家庭の方針で本当にさまざまだが、Nちゃんのおうちは、4年の頃からいくつもの学校をめぐった結果、ミッション系の女子中高は合わないと思ったようで、共学&大学付属校に志望校群を定めていた。そんなNママいわく、「中学受験は、後ろにいる、大人の勝負でもあるわよ!」と。確かに中学受験にはそういう一面もある。夏まではスイミングの全国大会参加と受験勉強を両立してきた、頭のよいNちゃんだが、「応仁の乱」の漢字をなぜか先日も間違えたという。暗記科目は特に、スキマ時間を使って繰り返し一問一答ができるように、派生分野も含めて、母が取捨選択しているとのこと。似た者タイプで努力家のNちゃん親子なら、このまま受験終了まできっと二人三脚で突っ走ることだろう。

 「焦った親が急にいらんことをはじめる」とはよく言われるが、さてわが家はどうするか。あとから後悔するよりはと考えた挙句、恐る恐る過去問演習のSの回答を見ることにした。結果、もうすぐ12月なのに、このレベル!? と愕然とすることに。やはりというべきか、パンドラの箱を開けてしまった気分だ。たとえば、社会の回答の一文が長すぎる。二百文字を句読点なしで書くなんてウソでしょ!? めまいがする……。
「えっとこれさ、主語と述語が一致しなくなるし、短い文に区切って書いたほうがいいよ」
ちょうど塾から帰ってきてごはんを食べるSに話しかける。が、疲れていたのだろう。
「え、なんで」
と話を聞こうとしない。
「いや、だからさ……」
押し問答になりかけ、しまいにSは
「オレはこれがいいと思っているの!」
と声を荒らげはじめる。つい私もイラっとして、「こんなんじゃ受からないよ!」と、禁句がのど元までせり上がってくる。が、どうにかこうにか、我慢・がまん・ガマン……。
 一呼吸おいて、お互いが疲れている夜に話す事柄ではないな、と反省。マイペースなSといえども、思春期に入りかけ。親に上から言われると、つい反発したくもなるだろう。私だってそうだった。あー、失敗、失敗。この件は、私からではなく、FCの先生から言ってもらって解決してもらうことにした。

 さて、ガッツリ入り込むほど、親目線では焦りがつのってくるこの季節。ついつい、足りていなさそうな分野の問題集をネット検索してはポチりたくなる衝動が湧き上がってくる。手元にある問題集を繰り返したほうが効果的だろうから、実際に取り組めるかは別だけれど、と言い訳しつつ、検索の手を止められないまま、11月の暗夜は更けていく……。

花まる学習会 川波朋子

【登場人物紹介】

:東京都内の私立中高一貫女子高出身。過去にはスクールFCで小中学生の英語も教えていた、花まるの先生。アンガーマネジメントの「イラっときたら6秒間数える」を実施してみてはいるが、毎回うまくいくわけではないのが困ったところ……。

:子煩悩パパ。算数は東京出版の『中学への算数』なども買い込み、ペラペラめくっては、解けそうな問題を一人で楽しんでいる。点数が取れるかどうかは別として、Sがまだ算数好きでいられるのは、夫の影響かもしれない。

長男 S:4歳から生粋の花まるっ子として過ごす。志望校は、部活・家からの近さ・本人の希望・学校理念の魅力・偏差値の5点で最終決定。変わらず22時就寝、6時起床で身長がグングン伸び続けている。

次男Y:お調子者の保育園児。なくて七癖。寝る前は母のひじをコネコネコネコネ……ひたすら触っている。きっとあともう少しと思い続けて、はや4年。終わりは唐突に訪れそうな予感。

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