その12 そして1年後 …… (中学1年生2月)

その12 そして1年後 …… (中学1年生2月)

 中学1年生の2月1日。息子Sは部活の友達と、千葉の夢の国へ、男子だけで繰り出していった。入試休みでヒマなのだ。朝6時前に出かけて、夜はパレードまでしっかり楽しんで帰ってきた。次の日はラグビー観戦へ、やはり友達と。思えばこの1年でSは遠出にも慣れたが、精神的に自立してきたような、そうでもないような……。

 ありがたいことに、学校の勉強や友達関係は順調のようだ。先生方も面倒見よく、手帳の使い方まで指導してくれる。スクールFCで学んだ学習計画の立て方ともリンクして、いまのところは課題や定期テストの勉強にも計画的に取り組むことができている。「ババア」と言われてしまうような反抗期はまだ来ていない(ふ~)。

 部活は、小学校までやってきたスポーツじゃないものをやりたい、と言い出し、体験入部してみて一番楽しかった、とラグビー部を選んだS。親としては「え、どうしちゃったの!?」と驚愕。かっこいいけれどケガが多いコンタクトスポーツというイメージで、小学校までのSのイメージとはかけはなれている。やはりというべきか、夏の公式戦で早々に鼻を折ってきた。親としては心配が尽きないが、本人がやりたいなら応援するしかない。
 身長も夫を超えたSだが、まだヒョロヒョロで筋肉はこれから。ポジション的にこのままでは当たり負けしてしまうし、ケガのリスクも高まってしまう。毎日の食事のたんぱく質や炭水化物の量をいかに増やして、身体をバランスよく大きくしていくかが、目下の悩み。
 もともと、料理に自信がない私なので、毎日のお弁当は当番制にするよ、と進学が決まった瞬間から宣言していた。「ママは週2、パパも週2で作るから、週に1回はS自身でお弁当を作ってね」と。下段にスープが入る、保温もできる筒形の大きな弁当箱なのだが、なんと最近はそれでも少ないらしい……。「肉!  肉! 肉! 茶色は正義!」と言い出し、魚の日は露骨にテンションが下がるのはいかがなものか。このままではエンゲル係数がとんでもないことになるではないか……!  救世主は誰だ……卵か!

 そして、中学生になったのだから、親は学校生活にほぼノータッチになるのだろうと思っていたが、思いのほか、ラグビー部の保護者の活動が盛んだった。東京では部員数が多い強豪校らしく、冬の大会シーズンは毎週のようにある試合に、親が応援にかけつける。試合ごとに撮影した写真や動画は、熱心な方がすぐに保護者SNSで共有してくれて、パパ会、ママ会も開催される。私学でもめずらしい部類だとは思うが、中学生になってもまだまだ親と一緒にスクラムを組んでくれることに、新鮮な驚きでいっぱいだ。

 ふと、去年の受験シーズンのことを思い出し、週末に晩酌しながら、夫に聞いてみる。
「そういえばさ、振り返ってみて、Sの受験って、幸せな受験だったと思う?」
「うーん……幸せかどうかは定義しだいかなと思うけど、いまSが楽しく学校や部活に通えているのがすべてじゃない。あとはまぁ……“二月の勝者”ばりの号泣するようなドラマチックなことは何もなかったけれど、普通の家庭はそんなもんじゃないかなぁ」
……確かに。「幸せな受験」と言ったときに、どうありたいかを思い描き、家族で共有するのも大事だろう。受験に至るまでの成長過程も大事だろう。そして、結果への納得も大事だろう。しかし入学後、わが子が日々を前向きに、イキイキと過ごしているかどうかが、振り返ってみて「幸せな受験だった」と親の最終認識を決めるものなのかもしれない。

 中学受験は、わが子と家族の大きなライフイベントであることには間違いないが、それでもやはり、通過点でしかない。エンドロール後も、人生はまだまだ続く。次章の幕がどんどん開いていくのだ。2月の日曜日、次男Yがその辺をうろちょろしているのを目の端にとらえながら、Sのラグビー観戦に目を細める私。保護者の熱気のこもった声援に、自分もだんだんボルテージが上がってくるのを感じる。こうやって子どもと同じ方向を向いて、一緒にドタバタ走りまわることができる幸せな時代を、もう少しだけ長く味わっておきたいと思う、とある麗らかな昼下がり。

花まる学習会 川波朋子

【登場人物紹介】

:東京都内の私立中高一貫女子高出身。物理的にぐんぐん大きくなる長男と甘えん坊次男に振り回される日々。次男Yが「犬を飼いたい」と言い出したが、やっと子どもたちが手を離れてきたのに……とやや二の足を踏んでいる。まずはアレルギー検査から……。

:地方の公立校出身。中受が終わったら一段落と思いきや……朝6時のラジオ基礎英語に、Sと一緒に取り組み続けている。お弁当づくりも筋肉増強の食事作りも、レシピ本を買ってレパートリーを増やすべく頑張っている。ここまでくれば子煩悩も立派!

長男 S:相変わらずマイペース。中学入学後、しばらくしてスマホを渡したが、自転車通学のためか、あまり頻繁には触らない。タブレットで音楽をよく聴いており、最近は「ブリンバンバン」と口ずさんでいる。

次男Y:あと少しで小学1年生。Sと違って、とことん負けず嫌いなYを、アルゴクラブにも入れようかな、と考え中。6年後、もしYが中学受験するとしたら、その頃にはきっと私も夫とケンカなんかせず、悟りをひらいて、菩薩のようになっている……はず!?

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