その11 プチ振り返り… (6年生2月)

その11 プチ振り返り…    (6年生2月)

 受験終了日翌日は晴れ。
「あー、全部片づけたい!」
と私の欲望が爆発。家のあちこちに散らばっている山のような参考書やプリントを、
「受験が終わったら、焚火ですべて燃やそう!(わが家の)お焚き上げじゃー!」
と息巻いていたのだが、ちゃんと調べてみたら、野焼きは法律違反……。たしかに煙や舞い上がる灰が迷惑か……。がっくりな気持ちを奮い立たせ、ゲームにかじりつくSのお尻をけり上げて(比喩)、参考書やらプリントやらをすべて縛り上げ、マンションの古紙回収置き場へ往復させる。
 
 そして、河川敷のデイキャンプエリアで焚火をした。炎の揺らめきを無心で眺めていると、ここ最近の緊張や疲れがじわじわとほどけていくようだ。2月にしては暖かい日差しと川の流れのきらめき、青い空に、つい目を細めてしまう。ぼけーっとデトックスを味わう。子どもたちはサッカーをしたり、周囲を探検したり、焚火のための流木を集めたりとせわしないが、私はいつものように焚火の前を陣取り、動かない。火の番人はゆずれないのだ、完璧な焼きイモのためにも。

 でき上がった焼きイモは自分史上最高のウマさ。石焼きイモにも負けない、ねっとりとした甘み。ドヤ顔で、Sに振る舞いながら、合間にプチインタビューをする。
「Sにとって、どうだった、受験? なんだかんだ最後までやったけど」
「えー…だるかった」
「はい!?」
「えー…だってさ、復習とかさぁ。復習とかがなければ楽しいよ。新しいことを習うのは楽しいからさ。でも過去問もそうだけど、何回も同じことやるのは……」
(いやいや、受験は完成度を上げるのが大事なのよ。最後までこのマイペースっぷりと、精神的な幼さは影響したなぁ。でもまぁ、学びを嫌いにならなかったのなら結果オーライか。)

「受験して、成長したなぁと思うところはある?」
「うーん……考えなしにぼーっとすることがなくなったかな」
「うん? どういう意味?」
「考えたうえでぼーっとするようになったり、やるべきことが終わってからぼーっとするようになったりした。あと字が少しきれいになった」
「そうなんだ」
(自分なりに時間を決めて動けるようになったということかな。子どもがぼーっとする時間も創造性にとって大事だと言うし。もっとほかに成長点はないのかと言いたいが……。)

「自分のなかで、勉強へのやる気スイッチが入ったのはいつ?」
「夏ぐらいかな」
「え、うっそ、まったく気がつかなかった……」
「いや、それまでよりはちゃんとやるようになったよ。量も増えたし」
(うーん、そうか。復習ノートを自主的にやりはじめた1月末かと思ったけど、本人にとっては違うのか……。)

 さて、2月9日の都立発表は残念な結果だったが、記念受験なので想定通り。夫とSと話して、進学は最初に受験するきっかけとなった、ご縁のある学校に決めた。Sとの相性と、家からの近さを考えて。そこから2~3月は止まっていた時間が動き出すかのように、休日に予定が入りまくる。諸々の学校の手続き、入学説明会、仲のいい友達との受験お疲れさま会、祖父母×2との受験お疲れさま会、早めの謝恩会、お礼参り、次男Y待望の家族のお出かけ×2、卒業式、卒業旅行、最後の雪国スクール、入学準備……。
 タスクが山積みで、ゆっくり振り返るヒマもないくらい慌ただしいが、直前のコンディションからは、2月校全落ちも覚悟していたので、母の奥底の本音は、ただ一つ。「朝から夫婦喧嘩しちゃった日に受かってくれて本当にありがとう……。S、よく頑張った!」

花まる学習会 川波朋子

【登場人物紹介】

:東京都内の私立中高一貫女子高出身。ぐんぐん育ちゆく長男と甘えん坊次男に振り回される日々。子どもたちが巣立ったあとの夫婦関係に、一抹の不安を感じている……。最近は「喧嘩するほど仲がいい」と開き直るしかないのかなと思っている。

:地方の公立校出身。結局Sが受験したのは全部で5校。どの学校もそれぞれに特色がある、ステキな学校だった。Sの2月1日校が残念だったことに納得がいかないようで、受かると思ってたんだけどな~と、こっそり“たられば”を私にこぼす。

長男 S:中受の受験率は7割、進学率は5割程度の地域に住んでいるが、お友達が進学する学校の情報を何一つ正確に持ち帰ってきてはくれない、のんびりマイペース屋。たまに聞いてきたと思いきや、学校名が違っている……。私のママ友情報網は狭いんだから、本当にお願いしますよ、もう……。

次男Y:保育園児。2月のバタバタのなかで、同級生の女の子から手作りチョコレートをもらう。「わ、1か月後のお返しどうしよう!?」と頭がいっぱいの母を横目に、ひとりじめして瞬時にチョコを食べつくす、スイーツ男子。

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